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男性は片手でメイコを横にどけるようにして会場を後にした。
ハナはヴィヴィの作品のすぐ前まで歩く。前に見た作品よりも勢いが増して感じる。作品から熱気が漂ってくるようなのだ。紙の集合体でつくられた人の視線が迫って目が離せない。メイコがハナの隣に立つ。
「すごいね、これ」
「だね。ヴィヴィ本人だった」
「えっ」
「ライブで作品制作する時と、創り方が同じだもん。やつれたけど、本人。岩神天生って、ヴィヴィの本名なんだね」
メイコは作品の横につけられたネームプレートを指さした。そこには、岩神天生という名前と、作品タイトルが書かれている。贋作者、というのがその作品のタイトルだった。
「これが本物なら、もう一つのヴィヴィ作品は? 間違って二人選出しちゃったとか?」
「いや、そんなわけないよ。あと、さっき電話してる人いた」
「誰が? なんの電話?」
「けっこう年配の人。たぶん、ヴィヴィのマネージャーじゃないかな」
ハナとメイコはヴィヴィの出展エリアに移動する。梱包されていたヴィヴィの作品は、すでに展示設置が終わっていた。ネームプレートにはVIVIという名前と、作品タイトル「朝日を待つように帰りを望む」が書かれている。
「これは、ヴィヴィくんの作品じゃないね」
「そうなの?」
「ヴィヴィくんの作品は二年前にスタイルが大きく変わってるの。レベルが上がったって話題になったんだけど、数点だけですぐに元に戻っちゃった。その後はそのスタイル変更が起こる前の作品ばっかり出てくるようになって、新作らしい新作は全然発表されてなかったんだよね。どれも過去作の焼き直しみたいな感じで」
メイコは作品をさまざまな角度から観察する。ハナには分からないが、メイコには作品の細かいところが分かるのだろう。
「これは別の人が描いてるね、たぶん。しかもそれほどうまくない。なんとかヴィヴィに似せようとしてるけど、頑張って似せようとしてる感じになっちゃって、ぜんぜん自然じゃないよ」
「そうなの? どこで見るの、そんなの?」
「紙の貼り方がヴィヴィくんと違うんだ。ヴィヴィくんの作品はぺったりくっつけるんじゃなくて、歪んだり浮いたりしてる。それが微妙な立体感と画面に揺らぎをつくってる。あと構図にセンスがないよ。ヴィヴィくんなら、こんな平凡なことしない」
「そんなの分かるんだ」
「ファンだからねぇ」
展示会場に小走りで入ってくる男の子の姿が見えた。
「あ、あれ、岩神くんだ。前に話した子。ヴィヴィのお兄ちゃんかなって言って」
岩神地生と書かれたスケッチブックを持ってヴィヴィの作品の前に立っていた少年だ。ヴィヴィのマネージャーと話している。なんだかもめている様子だ。
「行こう」
「えっ、行くの? 今行くのは、なんかやばくない?」
メイコは少年とマネージャーが話しているところに割って入っていく。
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