アーティストになる日

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 NCAの展覧会初日は、関係者のみのプレオープニングだった。推薦人たちとアーティスト、アート界を牽引するキュレーターや批評家が招待されている。それに作家と親しい関係のある人が各作家につき二名まで招待されていた。 「これがあのヴィヴィの新作か。勢いが完全に落ちちゃってるね」 「あの子はもう顔だけのアイドルになっちゃってるでしょ。一般には人気が高いけど、作家としてはもう無理じゃないかね」 「それにしても、岩神くんという新人の作品は良かったね。すごくエモーショナルで鬼気迫るものがあったよ」 「彼はよかった。他にもよく知ってる作家はいたけど、今年は彼がダントツだなぁ。技術もセンスもレベルが違うね。十年に一度の逸材だよ」  ハナとメイコはパーティ用におしゃれをして会場に来ていた。透明カップに入れられた赤ワインと炭酸水を片手に、二人で会場を歩き回っている。 「岩神くんの作品の前、すごいことになってるね」  岩神天生の「贋作者」の前には、ひっきりなしに人がいて、作品を褒めたたえている。それに引き換え、VIVIの新作には酷評がぶつけられていた。 「誰がこんなアイドル作家を推したんだ」 「NCAにふさわしい作品とは言い難いね、この程度じゃ」  関係者のみにも関わらず、会場にはたくさんの人が来場していた。今日は大賞の発表もあるため、アーティストはほぼ全員が会場に来ていた。ヴィヴィをのぞいて。 「そろそろ、今年のグランプリおよび各賞の受賞者が発表されますので、皆様、メイン会場へお越しくださいませ」  展示室にアナウンスが響く。その時、入口から一人の男が入ってきた。ヴィヴィだ。長い髪に伸ばしたままのヒゲ、汚れのついた白いパーカーに黒のスラックス。昨日着てた服と変わっていない。昨日との違いは黒いキャップをかぶってることと、バックパックを持ってないことくらいだ。  男は人々を手でかき分けて自作の前に立つ。それから振り返って言った。 「俺が本物のヴィヴィだ。誰か、マジックある?」  近くにいた人が、持っていた油性ペンを男に渡すと、男はネームプレートの名前の上に二重線を引き、その上にVIVIと書き直した。 「そっちのやつは俺のじゃないから。別に賞とか興味ないけど、偽物が出ちゃってるのはこの会として気にしないの?」  男はペンを返すと、会場の作品を見るために歩き去る。会場がざわつき、スタッフが駆け回り始める。 「今の、ほんと?」 「あいつを推薦したのって誰?」 「事務局は分かってたのかね」  しばらくして再度のアナウンスがあった。 「出展作品に不備が見られたため、一部の作品については事実確認を進めております。該当作品は本展の受賞対象からは外させていただきますので、ご了承ください。
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