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搬入日にヴィヴィのマネージャーと弟の地生と話したメイコは、ヴィヴィが薬物使用のために表に出られなくなり、代役として弟がヴィヴィを演じ続けていたことを知ったのだ。
「やっぱり、僕の実力じゃヴィヴィの作品じゃないのって分かっちゃいますよね」
「ヴィヴィ、そういう話は外でするな」
「変な人はここにはいないと思います。それに、どうせもうバレるから。あ、こちらヴィヴィのマネージャーの高木さんです」
年配のマネージャーは、地生の横で周囲の様子を伺う。
「兄はすごい才能の持ち主です。薬が抜けた時に、戻る場所があって欲しかったんですが。でも兄からしたら、未熟な僕が兄の地位を奪い取ったように見えてたみたいで。数週間前に事務所のマンションから逃げ出して、どこかに行ってしまったんです。ずっと探してたんですけど」
「まさか、これに出してくるとはね」
「僕は本当に、兄を守りたいだけだったんですけど、全然伝わらなかった」
地生は兄が本名で出している以上、ヴィヴィの名前で出している作品は失格になるだろうと話す。
「あなたはそれでいいの? 自分の作品、出してみたいって思わない?」
ハナが地生に声をかける。
「推薦人がいないとNCAには出せないので、どちらにしろここには出せないです。また別の機会で出せるように頑張りますよ」
「ねえ、メイコ。私の推薦を取り消して、彼を推薦してもらうことってできないの?」
「えっ、今から?」
「だって、どうせ偽物だったじゃない。作品も私がつくったわけじゃないし、エムなんてアーティストも存在しないもの。もともと架空の存在だったんだから、実在する誰かに権利を渡すってできないの?」
「ううーん、強引すぎるし、普通はぜんぜん無理なんだけど」
「アーティストをでっちあげること自体が無理なことだよ。もう一回ひっくり返してみない?」
メイコは分かった、と言ってすぐに浅倉に電話をかける。事情を話し、謝罪をした上で、浅倉は地生の推薦人になることを承諾してくれた。
「今期の展示では実行役員だから、なんとかするって。あと、浅倉さんから地生くんにメッセージで、これから自分の道を歩けるように、自分の最高傑作を本展で見せてください、って」
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