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それから急いで地生の作品を搬入し、設置したばかりのハナの出展作を取り下げた。ハナとメイコは出展者ではなく、地生の招待客としてプレオープニングに来ていたのだった。つまり本展では、VIVIと岩神天生と岩神地生。二人の作家による三点の作品が展示されていたことになる。
会場内の楽屋から浅倉と地生、他の推薦人たちが出てくる。弟の姿を見たヴィヴィは「ふざけんな」と言いながら弟につかみかかるが、浅倉が割って入って止められる。地生はヴィヴィの象徴でもあった紙でできたウィッグを兄に返そうとするが、兄はそれを手で払って受け取らない。
「ヴィヴィは俺の作品だったんだよ。それをお前が取ったんだろ、偽物のくせにっ」
「僕は、ヴィヴィを守りたいと思ってました。でももう、ただの岩神地生に戻ります」
暴れるヴィヴィを警備員が押さえこんだ。浅倉は他の推薦人数名とともにメイン会場に移動する。そして、今期のグランプリ受賞者が発表された。
二週間に渡る展覧会の搬出日、ハナは地生の搬出を手伝いに来ていた。
「仕事で来られなかったけど、メイコがよろしくって」
「こちらこそ。最後に無理をさせてしまって。でも、本当に感謝しています」
九つのキャンバスを使って構成された作品は、各パーツが独自の世界をつくりながら、全体として一つの作品としてまとまっている。ハナはすごく好きな作品だったが、賞には届かなかった。NCAのグランプリは岩神天生作「贋作者」。その他の賞も他の出展者が受賞となった。しかし、天生はすぐに薬物取締法違反で逮捕。天生がヴィヴィであること、最近のヴィヴィが偽物だったことが、ワイドショーを賑わせつづけている。地生にも記者が張り付いていた。
「浅倉さんが推してくれてたから、審査員特別賞とかくれるかと思ったのに」
「ははは、そんなに甘くないですよ。出させてくれただけありがたいです」
作品を一つ一つ包みながら、地生が言う。
「でも僕は、やっぱり兄の足元にも及ばない。兄の真似くらいはできるかと思ってましたけど、それも無理だったなぁ」
「作品の良し悪しとか、私には分かんないんだけどさ。この賞ってグランプリ獲るとその後揮わないんじゃなかったっけ。そういうジンクスがあるって聞いたけど」
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