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梱包が終わり、台車を使って裏の搬出口まで二人で歩いていく。
「売れるかどうか、才能があるかどうかなんて、誰にも分からないよ。ただ、君には覚悟が足りないと思うって、私が言われたことなんだけど」
外に出る前に地生は帽子を深くかぶり、マスクとサングラスをする。
「すごいなって私は思ったよ。君の作品、本当にすごいなって。私、昔ね、小説家になりたかったんだ。メイコを主人公にしたアーティストの話を書いたの。なんの賞も取れなかったし、その後も出版とかできてないけど、メイコが喜んで読んでくれたのが、すごく嬉しかった。でも誰にも評価されなかったし、とっくにやめちゃってたんだけど、君の作品を見て、また創りたいなって思えたよ」
入口に着いてタクシーを呼び、関係者のネームプレートを警備室に返す。
「僕も全然ダメだけど、まだやめたくないです。次は僕の作品を創っていきたい。兄の代わりだったけど、喜んでくれる人がいたのは、すごく嬉しかった。今度は僕の手で誰かの心に届くものを創りたいです」
「そうだね。そうだよね」
タクシーが到着し、後部座席に作品を載せ、地生も作品を抱くようにしてその隣に座る。車内から手を振る地生に、ハナも手を振り返す。
「家に帰ってごはんつくろ。今日はつくね鍋にするぞー!」
すっかり暗くなった町を一人で歩きながら、ハナは思い出す。
高校時代にメイコをモデルにして書いた小説のアーティストの名前が、エムだった。
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