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推薦を受けた三十歳までのアーティストだけが出展できる展覧会「ネクストコンテンポラリーアート」、通称NCA。ヴィヴィがこの展覧会に出展されたことを知り、メイコはハナを即席アーティストに仕上げてNCAに出展させ、プレオープニングでヴィヴィと直接話そうというのだ。
ハナをアーティストに仕立て上げ、本人がつくってもいない作品をハナの作品と偽ってポートフォリオをつくり、偽のキャリアを積み上げてホームページまでつくって準備しているのだから、メイコも相当いかれてる。もとはアーティストを目指して美大に通ってたくらいだから、本気を出した時は社会常識など気にならなくなってしまうんだろう。ちなみに、ハナのポートフォリオはメイコの大学時代の元彼の作品で、こちらもおもしろがって手伝っている。似た者同士なのだ。
「私、この後自宅作業だから、家で作戦会議しよ。まだ推薦人できる人はいるからさ」
ハナとメイコが会っていた男性は、都内の美術館の学芸員だった。もともとメイコが仕事を通じて懇意にしていた人で、偽アーティストのハナを推薦してもらうつもりで、ミーティングの機会を設けたのだった。
「はぁ。うまく嘘つける気がしないけど」
「嘘も本当になるのがアートの世界だからね! バンクシーだってニューヨークの美術館に無断で自分の作品を飾ってるんだから」
「その人は本物のアーティストなんでしょ」
「あんたは本物の私の作品なの、いい? これは仕事だと思ってやってくれる? あんたは三十歳だから、推薦取れるとしても今年が最後なの」
メイコの家に居候しているハナとしては、そう言われると断れない。分かった、とうなずいてメイコの後について自宅に戻る。
池袋にあるメイコのアパートには、入口にヴィヴィのポスターが大きく貼られている。画集や関連グッズもいっぱいで、二十万で買ったという小品も飾られている。テレビ出演は録画し、ライブペインティングのイベントもほとんど全てに通っているくらいだ。
有名ミュージシャンのジャケットを担当してから大ブレイクしてしまい、近頃はイベントに行っても近寄れなくなってしまったという。
「売れて欲しいって思ってたけど、売れたら売れたで俄かファンに腹立っちゃうのよね。私なんかすごく昔から目をつけてたのに」
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