5人が本棚に入れています
本棚に追加
目が大きく童顔の顔立ちが人気で、写真集が出るという噂もあったが、最近はメディアへの露出が少なくなっている。メイコは自身の情報網から、ヴィヴィがNCAの推薦を得られそうだという情報をキャッチした。そこからの行動は早かった。元彼に連絡して架空のアーティストのポートフォリオやウェブサイトをつくらせ、アーティストとしてのステートメントまで捏造してしまった。ハナが偽アーティストになれと言われたのは昨日の話だった。推薦人の都合がついたので、急いで内容を覚えろと言われたが、言葉が難しくて全く覚えられない。結局、ほとんどまともに喋れずに断られてしまった。
嘘をついていることにためらいを感じながらも、ハナはミーティングを台無しにしてしまったことを申し訳なく思っていた。就職先が決まらない自分は、まだしばらくメイコのアパートに居候させてもらわないといけない。
「メイコ、ごめんね。いろいろ用意してくれたのに」
「大丈夫よ。最初の一人は慣れるくらいのつもりでいい。これからよ。私の覚悟を見せてやるわ」
メイコはフンッと鼻で音を立てると、ハナのために資料をまとめると言ってパソコンに向かう。アートに関する知識が皆無のハナにも分かるように、業界の説明から始めないといけないとメイコは考えた。意気込むメイコのために、ハナはコーヒーを淹れる。仕事をする時のメイコは、ブラックコーヒーを飲まずに香りだけを味わうのが習慣なのだ。
「よし、簡単だけどハナでも分かるように資料つくったから、いったんこれ見てくれる?」
メイコはテーブルの上にノートパソコンを置き、ハナと隣り合う。いつも仕事が早くて優秀なメイコに、ハナは密かに憧れを感じていた。
「NCAは日本の現代アートの最高峰の展覧会の一つね。世界的に有名になったアーティストのほとんどがここから出てる。毎年二十人しか出展できないし、一度選ばれたら二度は選出されない。選ばれるだけでものすごく狭き門なんだよ」
「それ、その段階で私には無理なんじゃ」
「そこは私がなんとかする。コネを駆使してね!」
メイコの迷いのなさが眩しすぎて、まるで正しいことをしてるように錯覚してくる。正しいかどうかなんて分からないけど、メイコのために全力を尽くそう。バレたところで自分には失うものなんてないんだから。ハナは覚悟を決めた。
最初のコメントを投稿しよう!