アーティストになる日

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 NCAはペインティングからパフォーマンス、インスタレーションやメディアアートなど幅広く受け入れている展覧会だが、なぜかグランプリ受賞者だけはその後の成績が揮わないというジンクスがあって、出展者はみんなグランプリを避けたがっている。昨年の受賞者は通常のリンゴ五つ分くらいのサイズがあるリンゴをつくったというバイオアートだった。禁忌に挑むことの意味を説いた作品だとメイコが言っていたが、ハナにはすでにそれがアートなのかも分からない。作品は後で腐ったという噂だ。 「ハナはまず、自分のキャリアを覚えてもらうこと。あと、作品の説明をスラスラ言えるようになってもらう。しゃべりが苦手なのはアーティストにはよくあることだからいいんだけど、自分の作品について理解はしてもらわないとね」 「…うん、頑張る」  自信ないと言おうとして、ハナは言葉を飲み込んだ。 「自分を主人公にした物語を書いてる感じで練習してみたらうまくいくかもよ? ほら、高校の時、私のこと主人公にして小説書いてくれたじゃない?」 「ああ、よく覚えてるね、あんな昔の」 「すっごいかっこいいアーティストとして書いてくれたでしょ。あれのおかげで私、美大受かったよ」 「そんなの、メイコの実力だよ」  ノートに手書きした小説のことを、メイコがまだ覚えていたことにハナは驚く。あの頃は創ることが楽しくてしょうがなかった。でも、アートの道に進んだメイコと違い、ハナは希望していた出版社には受からず、書くことを仕事にするような職には就けなかった。就職してから細々と書いていた小説も、歳を取って現実も見えてきて、次第に書かなくなっていった。 「これさ、うまくいったらネタにして小説書けるんじゃない?」 「無理だって、もお」  楽天的な性格のメイコは、次々といろんなことに手を出しては失敗しまくっている。それでも本人はあんまり気にしていないようで、ハナにはそれがうらやましい。 「ざっくり設定考えたからさ、細かいところはハナが直してよ。自分が自然に演じられるように」  ハナはメールに添付されたファイルを開く。 「幼い頃に事故に遭ったショックで言葉を話せなくなったアーティスト・エム、主にレバノンで活動。これだけ?」  過去作品も充実し、展覧会の履歴は多く書かれているのに、プロフィールがあまりにも短い。 「エムってなに?」 「なんとなく。ミステリアスでいいかなって」
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