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「すっごい。できる子!」
戻ってくるなり、メイコはハナに抱きつく。
「うまくいきそうな感じだったの?」
「うん、かなり気に入ってくれたみたい! 浅倉さんが好きそうな作品には仕上がったなって思ってたけど、すごくうまくいったよー。作家のプロフィール部分がよかったのかも。あの人、無名の若手に対して好意的だから。海外で騙されてから本名を使わなくなったっていうところをけっこう気にしてたよ。ハナのプロフィールのおかげだね!」
「そんなわけないでしょ。メイコとの信頼関係とポートフォリオのおかげだよ」
「ちょっとはいけるかもって思ってたけど、まさか本当に説得できるとはね。ハナ、すごいよ。あっ、エムか。新進気鋭のアーティストのエム。偉い! かっこいい!」
「言い過ぎだって」
メイコが大はしゃぎしているのが、ハナにとっては何よりも嬉しい。高校生の頃、ハナが書いた物語に誰よりも興奮してくれたのがメイコだった。空想の世界を信じて、現実には言わないようなキザなセリフを口に出してくれるメイコ。物語を書くなら、メイコみたいな希望をくれる主人公がいい。
「あっ、そうそう。ヴィヴィくんに似た作風のアーティストがいて、浅倉さんが推薦頼まれたって言ってた」
「へえ、広告を切ってつくってるとか?」
「ううん、もっと全体の作風がそっくりなんだって。紙を使うとかメディアは変わってるんだけど、作品づくりの考え方が同じだって浅倉さんは言ってた」
「ふうん、そんなの見て分かるもんなんだね」
「推薦頼まれたらしいから、作家の詳細ももらったのかもね。ヴィヴィくんと作風が似てるなんて、百年早いわ」
ストローからズルズルと音を立て、メイコはアイスコーヒーを飲み干す。窓際に座っていた二人の目の前を、緑色のアーミージャケットを着た男性が通り過ぎていく。
「えっ、なにあの人、ヴィヴィくんそっくり」
「ええ、どれ?」
メイコの視線を追ってハナは窓越しに男性の姿を追うが、すでに通り過ぎてしまって顔が見えない。
「いや、まぁ気のせいだね。すごく痩せてたし、最近、本人見てないから自分の中の欲求がヤバいことになってるんだと思う」
「そう?」
「うん。じゃあ私、この後仕事だから行くね。今、ここの八階でアートの展覧会やってて、ヴィヴィくんも出してるから、ハナはそれ見て帰りなよ。勉強も兼ねて」
「メイコは行かないの?」
「私はもう三回見に行ってる。作品の配置も覚えてるよ」
「はは、そりゃそっか」
「うん。じゃあね!」
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