巣食う怪女←ノン!天女②

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巣食う怪女←ノン!天女②

                                                                              「本題から逸れているのは君が質問にすぐ答えないからだろう」「それは…すみません、しかし…、これは…えぇ?幽霊に出会ったことなんて、そのなかったんで」 「ふぅん?」「僕の人生には関わってこなかったので、でも信じてはいました。今は、もう信じざるを得ないですね」  父と実質二人暮らしの時の家のトイレはぼっとんだった。それは幼い子供にとっては父と同等の恐怖の対象として君臨していた。夜中に行く羽目になった時は泣けば叱られるというのにあまりの恐ろしさに目玉がとれるくらい泣き喚いた。夜中に背丈が足りないから電源が付けれず真っ暗な廊下を一歩一歩歩いていくと、背後にびっしりおばけが張り付いている気がして、おおよそトイレに辿り着けたためしはなかった。 「ふふ、君は運がいい。これほどサービスをして、信じない等と申したなら即刻くびり殺そうと思っていたが、良かった」  さらりと恐ろしいことを先輩は言い、僕は目を見開く。 「じゃあ、君の質問に答えよう。何故ここにいるのか?それは単純、霊はじめっとした場所に生息するんだ。きのこと一緒だね。さて、殺人が関与するか?最初に疑うにしては殺伐とした想像だが、いやいや!恐らく、そんなことはない。恐らく…」 「恐らくですか」「だって覚えてないんだもん」  先輩は跳び箱から飛び上がり宙に浮かんだ。さながら天女の生き写しめいたポーズに僕はまたぼうっと見惚れてしまい、締まりのない顔をしたんだろう。先輩はスカートの膨らみを気にし出し、僕に睨みをきかせた。不思議と、先輩の一言や仕草は過激だったり加虐めいていても、僕は嫌な気分にならなかった。現実離れした美しさ、そして幽霊特有のはかなさを兼ね備えているからなんだろうか。 「君は精神だけでなく脳みそも未熟なようだ。いいんだけどね、その年で成熟している方が不気味だ。…不愉快だが。私以外の霊も多分そうなんだけど、幽霊は自分の死因を知らないんだよ」   「コンビニから出た後の記憶が欠如していて、自分が死んだことしかわからない」先輩は天井の蜘蛛の巣が作れてそうな隅を見つめながら言った。  僕が間抜けな顔をしたのは、信じていない、つまり疑っていると取られたらしく、信じていないのかい?と耳心地の良い声で尋ねられた。 「もうなんでも信じますよ。しかし、死んだことがわからないって…」ゆっくりと瞬きをしながら、眠る心地で先輩は語りだした。 「確か、それは今から3年前の10月くらいで、私は1週間後に目が覚めた。10月の、22日。ケーキの日だったことを覚えている。目が覚めてまずコンビニに向かったよ。それまではこの校舎の裏側にある規模の小さいダムのパイプに引っかかっていて、ちょっとびっくりしたね。コンビニについて私はあの捜索願ポスターを見つけた。文化祭の時の写真を使われていたから、先生たちが作成したんだろうけど、中々どうして、よくできている。それで、私も1週間前はたむろしていただろう警察と同じように調査した。成果はそれほどなかった。証拠品は警察が根こそぎ保管してしまったんだろうね。それからもう3年にもなっているのに解決できていないとは。で、めぼしい収穫もなかったので、私も諦めて前向きに死んだんだとポジティブに生きようと調査を打ち切ろうとした」  幽霊なのに、生きるとはいかに? 「しかし探すのをやめた瞬間見つかることもよくある話」どこかで訊いたことのある歌詞を口ずさみ、先輩は続ける。 「その数日後、私はとある民家に侵入してニヤニヤしていた。幽霊の特権とは軽率に犯罪に手を染めれるとこだろう。一人暮らしの大学生なんて、シモ系の暇つぶしが滑稽で…、コホン、それで私は高校の時にそう仲良くなかった友人の家で父親が屁をする隣でニヤニヤしていた」 「仲良しの友人は感傷すぎて辟易する。私はその家に滞在してパートに出かける母親や、平日でもごろごろしている父親を見送っていると、比較的早い時間に同級生が戻ってきた」 「その子はそばかすが多いが、目鼻ははっきりしている、地味な子で、可愛らしくはあったが少々コミュニケーション能力が低かった。昼前だというのに平然と家に帰って来て、携帯をいじるのをやめず、父親の姿を見ないよう自室に引っ込んだ。彼女が返ってきたから私はその後をふわふわほんの少し(ドラえもんの足くらい)浮いて付いていった。彼女は迷いない足取りで扉にぶつかる勢いで部屋に転がり込んだ」  先輩は僕が話に飽きていないかこちらを流し目で見つめた。「長話は人をくたびれさせる。もう少し短くしよう、彼女は部屋に入った途端パソコンに向き合い何かを検索しだした。私はちょっと驚いた。彼女は遺体遺棄 発見と検索していた」  一番重要な部分をさらっと済まされ、僕は大声を出した。「そんな!そ、それはもう自分が犯人だと言ってますよ!」 「君、推理小説はよく読むほう?」突然の話題転換に僕は戸惑った。「え、えー、と、、人並みには。え、江戸川乱歩とか」本当は江戸川乱歩の名前は知っているだけで、孤島の鬼もネタバレサイトであらすじを知ったぐらいで読書も全然しない。 「江戸川乱歩?じゃああんまり読まないのか、しかし君の考え方は推理脳だ、どんなことにも事件と括りつけてしまう。早とちりをしやすくなる症状だ。彼女が犯人と決めつけるのはそう急すぎる。探偵病を患っている」 「彼女は検索結果がほとんど事件の概要なのですっかり怖気づいたらしく強制的にパソコンを閉じた。扱いが雑だから、おさがりっぽいな。それからスマホを眺め出した。スマホで検索すればいいのに、何故パソコンを使ったんだろう、私は気になってスマホを覗き込んだ。ぶれてはいたが、綺麗に映されていた。それは私だった。フラッシュがたかれて撮影されたらしい写真、私の周りにはバレーボールが散らばっていた。彼女は多分君の辺りから写真を取った。口から喀血し、制服を着た状態で寝そべっている私を。彼女は第一発見者で、顔面蒼白で、スマホで検索することを忘れてしまうくらいに動揺して、サボることも、早退することも忘れて家に駆けこんだというわけ」  先輩は自分にとって最もターニングとなる部分を畳みかけた。写真の様子から推定するに外傷はなく、口に付着した血は光の加減も関係するが、鮮やかな赤色だったので、呼吸器系から流れたと推測したらしい。「胃や消化系から出ているなら吐物も混じるからあまり綺麗な色合いじゃない、この場合は吐血。喀血との違いに注意してほしい」  第一発見者である彼女は暫し呆然と写真を眺め、体全身をベッドに押し付けた。
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