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うららかな春の日
3月の暖かい日射しを受けながら、結城と美月はゆっくりと高校からの帰り道を歩いていた。
小柄な美月の歩幅に、結城は自然と合わせて歩いた。子供の頃から、家が近所な事もあり、何かと一緒に歩く機会も多かった為、結城にとっては自然な事だった。
高校に入ってからは、野球部だった結城と、文化祭実行委員を中心に活動していた美月では、帰る時間が違う事も多かった。
ただ、小さい頃からの顔馴染みであり、家の方向も同じなので、部活がなく、同じタイミングで帰る時は、いつも一緒に帰った。
二人とも高校の制服を着ている。最近はオシャレな制服の高校も増えたが、2人が通う地元の公立高校の制服は、よく言えば普通、悪く言えば地味なブレザーだった。
そして、この制服を着るのも、明日の卒業式が最後だった。
「ユウちゃんとこの道を制服で歩くのも、きっと今日で終わりだね」
美月は肩より少し長い髪を、風に揺らしながらつぶやいた。
決して開けているとは言えない、地方都市の外れに位置する2人の高校からの通学路は、どこにでもあるような地方独特の風景が広がる。
畑や雑木林、住宅などが入り混じって続く道だ。取り留めて特徴もなく、特別でもない。
でも美月は歩いて30分の、この通学路が気に入っていた。
庭に植えられている花や花木、街路樹に芽吹く若葉などからも、季節の移り変わりを感じる事が出来る。
畑では、季節ごとに農産物がスクスクと成長している。
コンビニだってちゃんとある。一軒しかないが。
子供の頃から通っていた駄菓子屋は、まだ健在だ。店主のおばさんは、いつの間にかお婆ちゃんと呼べそうになってしまったが、今でも前を通る時、挨拶してくれる。
この前はホームランバーをくれた。
そして何より、この通学路が気に入っている理由は、結城と帰る事ができるからだ。
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