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「ユウちゃんは明日の卒業式が終わったらどうするの?」
「野球部の連中とボーリングとカラオケの予定だな。美月は?」
「わたしは咲子達と遊びに行く予定。夜はお婆ちゃんが五目ちらし寿司を作ってくれるって」
「美月ん家のばあちゃんの五目ちらし寿司、美味いもんな」
「前に私の家に来た時、ユウちゃんおかわりしてたもんね」
「うん、あれは美味かった」
2人は駄菓子屋の前を通りかかった。今日は店先に誰もいない。残念、挨拶していこうと思ってたのに。
「駄菓子屋のおばさんいなかったね」
「うん・・・」
会話が途切れる。そして短い沈黙の後、美月がつぶやく様に言った。
「本当に、今日が最後のユウちゃんとの通学路だね」
「だな・・・」
いつも2人がサヨナラをする曲がり角が、見えてきた。
もう本当に通学路を一緒に歩くのも最後だ。
左に曲がって5分で美月の家、右に曲がって15分が結城の家だった。
曲がり角の手前で、結城は足を止めた。
何かあったの?という様に美月は結城を見た。
「俺、美月が出発する日、見送りに行こうか?」
「どうしたの、いきなり」
「いや、何となく・・・」
どういう表情をすればいいか分からずに、照れからちょっと拗ねた様な顔をしている結城と対照的に、湧き上がってくる笑顔を抑えながら、美月は続けた。
「家族、みんな来るけど」
「えっ」
「でも、来て。家族みんなユウちゃんの事、子供の時から知っているんだから、問題ないでしょ」
結城の隣から正面に位置を変えた。真っ直ぐに結城を見つめる。そして大きく息を吸った。
「ユウちゃん来て。ユウちゃんに来て欲しい」
その言葉を聞いて、結城は自分の心臓の鼓動が速くなるのを感じた。そしてそんな自分の反応に少し驚いた。
美月は子供の頃からの知り合いで、近所に住む友達で、まるで兄妹のような関係で。
でもそれだけじゃ、ないよな。
「うん、行くよ」
短く、でもはっきりと結城は答えた。
その言葉を聞いて、美月は喜びよりも、安心した表情を浮かべた。心の中で、よかったとつぶやいた。
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