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「ええと、ですね。亡くなったご主人は日本画家でいらっしゃるんですよね」と、ウルフ刑事はなんとか非難がましくない台詞を絞り出した。
「ええ、そうです」
「絵のモデルとして、画伯に出会われたとか」
「はい。世間から見れば、玉の輿、というのでしょうね」と、どこか寂しそうに笑う。
夫が亡くなったから、というだけではない、寂しそうな笑みの理由は、関係者からの聞き込みから想像がついた。
「裕福でいらっしゃるのに、お友達とランチに行ったりしないんですね。ご近所の方は、奥様をあまりお見かけしたことがないと言っていました」
ウルフ刑事はちょっと眉をしかめた。本当のことを言えば、近隣の住民からの証言は、彼女の事を「あまり見かけない」などという控えめなものではなかった。画伯が結婚していたことすら、知らなかった、と驚く人がほとんどだったのだ。
「ご主人の絵を扱っている画商に聞いたのですが、画伯は奥様にたいへん執着していて、外にもあまり出さなかった、とか」
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