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「その通りですわ。主人は私を家の中どころか、絵の中に閉じ込めておきたいとよく言っていました。私の体型が変わることも嫌がって、甘いものも食べさせてはもらえませんでした。唯一、許されていた甘いものと言えば、主人と毎朝一緒に食べる、フルーツ入りヨーグルトだけでしたの」
「じゃあ、このドーナツは」と、ヒロ刑事が紅茶の横のお皿を指さした。
「はい。不謹慎だとお思いでしょうけれど、主人が亡くなって、なにを食べてもいいんだと思ったら、つい買いすぎてしまったものなんです。私一人では、食べきれませんので、よかったら遠慮せず、召し上がってください」
「今まで、ドーナツも食べられなかったんですか!」と、ヒロ刑事は同情を込めて大きくうなずいた。
ドーナツはヒロ刑事の大好物なのだ。さっそく白い砂糖衣がとろりとかかったドーナツに手を伸ばそうとして、ウルフ刑事に手をはたかれた。
「出された物を食べてはダメですよ!」と小さな声でウルフ刑事が耳打ちする。
容疑者宅で出された物は、飲んだり食べたりしてはいけない規則なのだ。まして画伯の死因は、まだはっきりしていないものの、毒殺の線が濃厚だ。
(危ないからダメです!)とウルフ刑事はヒロ刑事に目で伝えた。
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