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「ヒ素、とおっしゃいましたね。主人は昔ながらの色が良いと言って、本当はいけないのですけど、この絵の具を使っていたんです」と、立って行って小さな小瓶を取ってくると、ふたりに差し出した。
「シェーレ・グリーン。とても美しい若草色なんですけど、ヒ素が含有しているんです。ですから、現在は使用を禁止されている絵の具なんですの」
「なるほど! 絵の具と言っても粉状なんですね。絵を描いているときに吸い込んだのかー。どうりで亡くなるには、検出されたヒ素の量が少ないはずだな」
「ヒロ先輩、容疑者に情報をもらしちゃ、ダメですってば!」
「ウルフこそ、容疑者に容疑者なんて言ったらダメだろ!」とお互いに肘でつつきあっていると、彼女はくすくすと笑いだした。
話しているうちに、彼女の表情が明るくなっていき、ますます美しくなっていくように見える。ヒロ刑事とウルフ刑事は、沈んでいた彼女を元気づけてあげられた気がして、嬉しくなった。
「このシェーレグリーンの絵の具、お借りして行ってもいいですか? 奥様がヒ素を少量ずつ、食事に混入していたのではない、という証拠になりますから」と、彼女の無実を証明してあげたいという気持ちにすらなっていた。
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