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「ええ、もちろん、どうぞ」
彼女は絵の具を手渡した。白く、細い指先には、控えめな色ながら、美しくマニキュアが施されていた。
「それにしても、この絵の具は綺麗な緑色ですね。毒が含まれているのだとしても、食べる訳ではないのですから、この絵の具を使いたくなる気持ちはわかります」とヒロ刑事とウルフ刑事はうなずき合った。
「あら。お二人とも、絵をお描きになるんですか?」
「ええ、まあ」と、ウルフ刑事は頷いた。「僕はスマートフォンのアプリで絵の練習を始めたところなんですけど、ヒロ先輩の絵は素晴らしいです。ほら」とスマートフォンに保存してある画像を見せる。
「おい、よせよ、本職の奥さんだぞ」とヒロ刑事は照れて、ぽっと赤くなった。「そうだ、画伯が描いていた絵を見せていただけますか?」
「ええ、いいですわ。どうぞ、こちらへ」というと、彼女はソファから立ち上がり、喪服の裾をひるがえした。
案内されたアトリエは、庭に凸の字のように張り出していた。自然の光が入るように、三方の壁は天井から床まで、はめ殺しのガラス張りになっているが、アトリエをぐるりと木々が囲んでおり、外からはまったく見えない。
「ここで主人はいつも絵を描いていたんですの」と、いいながら、彼女はイーゼルに立てかけられている絵を覆っている布を取った。
「これは、奥さんですね」
「ええ、恥ずかしいのであまり見ないでくださいね」と彼女はすぐに布をかけてしまった。
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