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「なんですか? あれ」
「福利厚生の一環」
「ふくり、こうせい?」
ここに就職して初めて聞いた言葉だ。そんな単語存在してたんだ。
驚いて副店長の顔を二度見すると、本気の笑顔で語っている。逆に怖い。
「薬箱。好きに使って良いわよ。給料から引く、なんてことしないし」
「え? 救急品だったらお客様用に本格的なのあるじゃないですか」
「あれは本当に会員様用!」
「す、すみません」
「薬局で売ってる薬と成分変わらないのに、買って来るより安いのよー。知らなかったわ。今まで損してた気分」
「へぇーそうなんですか」
副店長のいつにないテンションの高い話を聞きながら、鼻がむず痒くなってきた。これに効く薬入ってんのかな……って!? あれ?
ちょ、ちょっと待て!! まさか、
「あ、あの! それ、昨日??」
「そうよ。セールスに来て下さったの」
『せーるすに、きてくださった』だー!? いつも飛び込み営業が来たら、俺より筋骨隆々な腕振り回して、追っ払ってるじゃないか!
「商品も補充は勿論、必要な物や希望の物、どんどん入れ替えてくれるらしいの。勿論ちゃんとした物ばっかりよ。詳しく説明聞いたから間違いないわ」
人と物には猜疑心の塊で、裏切らないのは己の肉体だけ! が口癖の副店長なのに、説明されて『間違いない』だと? 絆されまくってる……。
俺は目眩がしてきた頭を押さえながら、恐る恐る未知の物体に近づいた。
色が付いた半透明の箱の中には確かに様々な薬が綺麗に陳列されてて
引き出しの手前には名刺が挟まれていた。
見たことの無い会社名と……見覚えのある名前……
”朝水”!!!!
(嘘だろ……ここに? どうやって? なんで?)
俺は、副店長との二人の世界から一秒でも早く抜け出したかったのに、自分の机に突っ伏してしまった。
「もう! ホントに元気ないわね! いくら花粉症でも、出勤早々寝ないの!
ほら、何でもあるから、好きな薬飲みなさい」
「ケッコウデス……」
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