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「岩崎!」
「え?」
カウンター越しの旧友を置いて事務所を出て来た筈なのに、俺の目の前に朝水はもう現れた。
「お前、副店長と話してたろ?!」
「いや、もう用は終わってたし。世間話してただけだから」
走ってきたのか、肩で息をしている。逆光で見る笑顔は無駄に眩しいけど……そんな事より!
「お前、さっき……偶然って?! ここに?! 朝、あの薬箱見て、俺、」
「びっくりした? 昨日居なかったもんな」
綺麗な笑顔から、昔良く見た悪戯ガキっぽい笑い顔に変わった。
懐かしい……いや、何も面白くない!
「大当たりだったのは嬉しいな。偶然も嘘じゃ無い。大体のアタリつけて来ただけだから。
岩崎を見かけた乗車駅の最寄りにあるジムってここ位しかなくて。岩崎の性格じゃ、駅からまたバスとかに乗るような遠い所で働かない気がして」
「うぅ……」
一時だけだったクラスメイトに図星をつかれて、推理にぐうの音も出ない。
そう。今働いてて良かったと思う事は、駅から近い、それだけだ。24時間営業だからシフト無茶苦茶だけど、電車が動いている時間に出勤退勤させてくれるし。
もし駅から遠い店にチェーン店異動食らったら、多分辞める。また駅近ジムか何処かに転職すると思う。
なんて説明を、朝水にする気はさらさら無いので、俺は恥ずかしいうなり声を上げた後、だんまりを決めた。
「お昼いくんだろ」
「そう」
歩きだそうとした俺の背後に向かって朝水は歩き出した。
「なんで後ろ付いてくるんだよ?」
「いや、俺の車そこだから……」
俺は振り向き、停まっている車のボディを見て、朝水の返事を理解した。
(自意識過剰、恥ずいっ!)
事務所にある箱と同じ名前とマークが車にも入っていた。従業員入り口出た所は駐車場。そんな事も失念してた。付いてくるって思い込んだ……俺、今顔真っ赤だろうな……余計恥ずかしくなってきた。
――って、仕方なくないか!? 8年ぶりの再会から怒濤よ! 職場にまで来られて、箱置かれて……勘違いするって!
俺がめまぐるしい感情に振り回されまくってる間に、朝水はもう乗車してた。
「飯食いに外行くんだ?」
「あぁ」
朝水はドアを開けたまま喋りかけてくる。
「休み時間決まってんだろ。引き留めてゴメン。じゃあ、また」
「え、」
俺に早口で言葉を投げつけて来たかと思ったら、ドアをバタリと閉めて、営業車は俺の横を素通りして走り去っていった。
車のバンのケツにも入っている薬キャラマークを見送りながら、俺はまた顔が真っ赤になっている。きっと。
(昼飯食いに行くのに、車に乗せてくれるのかと思った! 自意識過剰! 学習能力なしかよ俺!!)
車の姿が見えなくなって、漸くとぼとぼと歩き出せた。
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