再会後

6/8
前へ
/15ページ
次へ
   一日ご機嫌だった副店長は扱いやすかったけど、疲れた。   「お先に失礼します!」とできる限り明るい声で、仕事場を後にしたけど、疲れきって鉄の扉が重くて中々開けられない。  筋トレの園で働いてるのにあるまじきこの姿。でももう腕に力を入れる気力がない。ふんっと体当たりして、漸く脱出した。  本来は外の清々しい空気、なんだろうけど、生憎俺にとってはむず痒く息苦しい。 「へくしっ」  早速数回連続くしゃみに襲われ顔を上げると、潤んだ視界にパッシングする車が見えた。見覚えはない。  俺が邪魔なのか。そそくさと早足で駐車場を抜けようとしたら 「岩崎!!」  クラクションよりデカイ声が飛んできた。  驚いて声を辿ると、見覚えのなかった車から、この数日でさんざん見覚えのある顔が覗いていた。  ま、ち……ぶせ? 「今から帰るの?」 「みりゃ解るだろ」 「用事は?」 「どこも行かない。疲れてるし。帰るだけ」  駐車場内、俺の横をちょっとイカツめの車が徐行しながら着いてくる。なんなんだよ。 「送るよ。家まで」 「は?!」  朝水の一言に俺が凝視した途端車は止まり、助手席のドアが開いた。 「疲れてるんだろ。乗って」 「――なんで!」 「楽だよ」 「う……」  今から駅の改札くぐって、快速から普通に乗り換えて、最寄りから家まで歩いて……の行程が全てない? いや、なんで送ってもらわなきゃ 「今は、丁度ラッシュにあたる時間だな」 「う……」 「乗ってくれるなら、家まで岩崎がここで俺に向かって一歩歩く、だけだけど」 「う!」  俺の性格、八年前でたった一年なのに、お見通しでよく把握してんな!  百個御託並べたって、流されるんだよ! 俺は!  楽なこと最優先で選ぶし、自分の意思なんて放り投げて自分でなんだお前は? って言うほどあっさり誘惑に負けるんだよ! 「おっ! ありがとう!」  俺が無言で車に乗ると、送る朝水が礼を言ってきた。本当に乗って良かったのか? と悩む間もないほど、車は直ぐに発進した。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加