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「ずっと、待ってたのかよ?」
「そんなには。俺も仕事終わりだし、早くは来れなかったし」
怪しすぎる行動の朝水を、睨んで威嚇してみたけど、全く効果なし。
ニッコニコで、ハンドルの上で人差し指がリズムを刻んでる。
鋼のメンタルか!
「息どう?」
「どうって……」
言われて初めて気付いた。外気に触れた途端鼻がブシブシ言ってたのに、車に乗ったらおさまった。
「車内用の空気清浄機、効いてるみたいでよかった。
でもさっきはそれで助かったー! 従業員入り口結構暗いし、近づきすぎたら不審者になると思って離れてたけど、遠目で岩崎を見過ごしたらどうしようってすごい不安だったんだ。
だけど一発でわかった。響き渡ったそのくしゃみで! なによりの目印になった」
朝水は運転の合間にチラッと俺を見ると、思い出し笑いし始めた。
「くそっ……」
「今日は助かったけど、飲んでよ。花粉症ましになる薬。事務所の箱ん中入ってるから」
楽になりたいけど、こいつのお陰でよくなるのはなんか悔しい。俺は首を縦に振らず、朝水の申し出をスルーした。
「良い車に乗ってんだな」
「ほんと? ありがとう。買い換えた甲斐があったな。岩崎が気に入ってくれて嬉しい。いつでも乗ってよ。これに」
「おぅ……は!?」
あっぶな。普通に返事するところだった!
薬から話を逸らしたどうでもいい話題をふったつもりが、俺がこの車を気に入って、これからも乗せてもらう展開になってる?!
人との会話が上手じゃないのは自覚あるけど、朝水が仕事柄なのか、もともと才能あったのか巧みだ。
会話がしらない内に朝水ルートに。昔はただバカなこと言い合うだけで、こんな感じじゃなかった気がする。
ナビで入力画面出されて自然に住所も言ってしまった。
いや、俺が迂闊なだけか。でも、八年前とはいえ仲が良かったクラスメイトに、ましてや同性の元友達に、警戒心を見せつけるのもおかしいだろ?
……正直判断力がバカになっている。俺の中で、自意識過剰恥ずかしい感情と、おかしいだろヤバイだろブレーキが壮絶なバトルを繰り広げてる。
俺に出来ることは、心地良いシートに背中を付けず座っている、というささやかな抵抗。
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