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「車なら、営業車で充分だろ」
「あれにだけ乗ってたら、未来永劫岩崎を隣に乗せられないし」
「なんで?」
かっこつけなところあるから、社名入ったバンに乗せるのは恥ずかしいとか?
「社名背負って走ってるのもあるけど、仕事柄大事な薬積んでるから。他人は絶対に乗せない。仕事中は勿論、いくら営業時間外でも」
「へぇ。意外と……」
「真面目な奴って? 見直した?」
つっこまれたことは図星だ。昼間のことを思い出した。乗せてくれるのかって勘違いしたら置いてかれた俺。そういう理由だったのか。
信号で停止したタイミングで、目を細めて顔を覗き込まれた。
もっと至近距離でじゃれあっていたはずなのに
大人になった顔は、高校生の朝水とはオーバーラップせず、予想外の緊張が俺を襲う。
あ、でも……
朝水の視線が本の僅か、おれの頬の上に移動したのに気付いて、動悸はおさまった。
「岩崎らしき姿を見つけた時もさ、別営業所へ社有車で行く用だったから、用事終わりカフェに入ったんだ。もし営業車乗ってたら絶対車置いて何処か行ったり、ましてや電車で追いかけたりしないし出来ない。
だからあの時……似た人を見付けたのも、追い掛けられる状態なのも、偶然にしてもすごい確率な気がして」
朝水のリズムを刻んでいた指は止まり、ハンドルを握り締める音だけが小さくギュッて車内に響いた。
「一か八かでつけたんだ。そしたら……」
「俺が、鼻うがいしてた」
「そう!」
妙にシリアスな空気が流れ始めたのがなんだか怖くなって、俺は前後の猜疑心も捨てて、おどけて再会の出来事を口にした。
見られて笑われたときはムカついたのに、今朝水が笑ってくれてホッとしている自分がいる。
気が抜けたのか、つられて一緒に笑った。
再会して初めて、八年ぶりに一緒に笑った。
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