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「朝水……そんなに経つのに、良く俺って解ったな」
洗面台に俯き、鼻に器具を突っ込んでた俺。
「そりゃあ、解るよ」
「え?」
ベンチに座ってからも、殆ど朝水を見なかったけれど、ふと見ると視線で全てを悟った。
昔の記憶さえも瞬時に蘇る。
――あぁ、そうか。筋金入りだったもんな。
人の事を『変わり者』と言う資格がないだろ。思春期から変わり者の癖に。
あの頃は言葉を知らなかったけど、こいつは希な”フェチ”だった。
今も変わりないんだな。
俺を見つめて来る視線。目と目は合わない。少しだけずれている。
ずっとその事には敏感だったから、すぐに気付く。
今も、やっぱり朝水は俺の疵を見てる。爛々として。
――俺の顔には疵が有る。
右頬の上、目の下、平行に長さ5センチほどの。
さっきトイレの入り口に向いていたのは、顔の右側だ。
他の奴なら、それでも気付かれた事に衝撃を受けるけど、朝水に関しては驚かない。それくらいの目聡さだった。当時も。
この疵は、悲しい事件でも事故の所為でもない。小さい頃、ただ自分で誤って付けた。遊んでいる時に枝でがっつり。
男子だったら一つや二つ、身体のどっかに付けてたって不思議じゃない。たまたまそれが俺は顔だった、だけ。
勿論小学生の時点で痛みは無かったし、鏡で自分の顔は毎日見ているし。
慣れてしまっているけれど、小・中・高初めて会う奴らは、必ず最初は絶対疵に視線が集中するのが解った。
皆、視線が少し目の下にずれているから、俺自身が一番わかる。
認識した後は、気を遣って見ない振りからの慣れてくれるか。
好奇心いっぱいに聞いてきて、武勇伝も無いことを知ると飽きて弄るのもやめ、次第に慣れるか。
大概そんな感じなのに――今、見つめてくる朝水だけは、違った。
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