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「それ汚していいから、ふけよ」
朝水が差し出して来たハンカチを、濡れてしまったから返せず、ずっと握りしめていた。
買い直して返そ、と心に誓い、言葉に甘えて鼻を拭いた。
「昔は花粉症じゃなかったよな?」
「あぁ。三年くらい前から、突然なった」
「でも、鼻炎ではあったな」
「そうだっけ?」
「冬になると、鼻赤くてずるずる言わしてただろ」
お前、疵以外も見てたのかよ、と口から出かけて寸前で止めた。
話題に触れたくはない。何故か。
他の奴らなら、一切気にせず、向こうが振りにくそうにしてたら、自分からネタにして言ってやったりもするのにな。
朝水には、しない。
「苦しくて集中力無くなってぼーっとするし、この季節最悪だ」
「薬は?」
「飲んでるし」
「効くの飲めよ。今、良いクスリあるぜ。頭がスッキリしてたちどころに苦しみなくなるやつ、どう?」
「え?!」
「ウハハハハ! 岩崎今、脳内でクスリって片仮名で聞いたろ! 俺を売人扱いすんなよ」
朝水の言い草に、無意識に身体を横に半身ほど離れた。確かに変なもん売られるのかと思った……久々に同窓生に会って色々勧誘するやついるって聞いてるし。
「仕事がら、つい出たわ」
「仕事……って?」
そういや、この奇妙な状況忘れてた。
良い大人の男二人が、平日ホームのベンチで喋ってるって、珍しいだろ。何してんだ? 朝水。よく見るとちゃんとしたスーツ着てんのに。
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