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再会
うぅ……っ
もう無理だ。次の駅で降りる。
一駅がこんなに長いかって、こういう時に体感する。
たかが数分が数倍に感じられた停車と同時に、俺はダッシュで駅のトイレに駆け込んだ。
午後のラッシュ前、中途半端な時間だからか、トイレには誰も居なくてホッとする。
いや、居てもするけども。
俺は洗面台を陣取り、必携しているポーチからグッズを取り出し、手っ取り早く用意した。
「エーーーーー」
はぁ~~、気持ちいい~。
「ちょ、岩崎?!」
え? な、俺の、なまえ?
洗面台に向かって俯いていた顔を、反射的に声のする方に向けた。
「?! ガッッッ!」
うわぁぁぁぁぁぁぁ!
「ゲホッ! ガハッ!」
イッテーーー!! うぅぅ。
余りの驚きに、目から鼻から口から液体が駄々洩れで、顔の中も吐き切れず残ってじんじんして……
「大丈夫かあ?」
涙でぼやけた視界に、ブランド物のハンカチが入りこんで来た。
* * *
「ったく、驚いたよ。公衆トイレで、あんな事してるやつ、初めて見た」
「ウグッ……かふんしょう、だから……」
「あーなる程。花粉症だからかぁ――って、納得するかよ。変わり者」
隣でゲラゲラ笑っている奴に、ホームまで戻され、ベンチに並んで座らされている。
恥ずかしくて、来た電車に飛び乗って逃げたいくらいだけど、目の前の電車を見過ごす。
衝撃で上手く通せなかった塩水が、耳の奥に入ったのか痛い。
言い訳も、上手く話せない。
「なんで、『えーー』って言ってたの?」
「くっ……『エー』が、一番いいんだょ……」
「あーとかいーとかうーとかおーとかじゃ」
「試したけど一番『エー』がよかったから……」
「それほんとは出すの口から鼻から?」
「おれは、鼻派……」
「へぇ~。それさ――」
「もう、鼻うがいの話よくないか?!」
俺は、しこたま浴びる恥ずかしい尋問に耐え兼ね、叫んだ。
驚いたのは解るけど、何でこんな……どうでもいい話を。こんなに――
「ほんとだ。こんなに……七年ぶり? 八年ぶり? の感動的再会なのに。
岩崎、ひさしぶり」
「っ、」
自分から話題を変えた癖に、俺は返事が出来ずに目尻が痛い振りして掌で覆った。
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