出会いは覚えのない再会

10/17
前へ
/317ページ
次へ
こんな安アパートなんてすぐ見つかっても仕方ないか。そこはもう気にすることをやめた。問題なのは匿名さんが、城井杏樹じゃないって事だわ。 コンコンコンコンコン 5回ノックされた。本当に、来たんだ。 「……どちら様、ですか」 「俺だ。開けろ。」 断れない甘い声にどうしようもなく頼り縋りたくなった。もう助けて、と。私の社会を返してと。 「おい、なんで泣いてんだ……」 「あ、ご、ごめんなさい、」 「社会の邪魔ってなんだ。」 「……あなたは、誰なの?」 「城井杏樹(しろいきょうじゅ)。名刺のフリガナは、源氏名だ。」 しろい、きょうじゅ。 だめだ、本当に知らない。 「とりあえず中、入れてくれ。さみいよ。」 いかにもホストです、ってスーツを着こなしている城井杏樹(きょうじゅ)を、ホイホイと中に招いてしまった。 「えっと……コーヒーでいいですか?」 「いや、水くれ。酒入ってんだ。」 「あ、そっか。お仕事………仕事!!!」 「!?おい突然大声出すなよ、どうしたんだ?」 ミネラルウォーターを渡してぽつりぽつり話している自分がいた。それを全部聞いた城井杏樹は、顔を歪めた。 「分かった。俺も調べてやる。こう見えてコネクションは多い方なんだ。」 「え、そんな、なんでそこまで。」 「そんなん、好きな女のためだからに決まってんだろ。」 今、この人なんて言った?
/317ページ

最初のコメントを投稿しよう!

139人が本棚に入れています
本棚に追加