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出版社から徒歩3分程度の所にある路地裏の喫茶店。
店内は外観同様にレトロで洒落ている。
霙はカウンター内に立つ老齢の店員に軽く挨拶をしてから店の奥にある唯一のボックス席へと向かう。
「よっ、ハナちゃん。待たせたね」
……ハナちゃん? 漫画家というのは女性なのだろうか。
そういえば道中に女性向けの漫画雑誌と聞いたな。
「あ、ミゾレさん。い、いえ、大丈夫です、」
か細いおどおどとした声。だが女のものとしては低すぎないか?
不思議に思って霙の肩越しから相手の姿を確認して、絶句する。
「ハナちゃん、今日はスペシャルゲストを呼んだよ」
「スペシャルゲスト、ですか?」
コテンと小首を傾げながらこちらを見上げるソイツと、おそらく視線はかち合っているのだと思う。
「ハナちゃんが大ファンの、天道 日輪先生だ」
「てんどう、かりん……え──。」
ソイツもまた言葉を失って、大きな口を開けたままで微動だにしなくなってしまった。
口を閉じろ、下品だな。……いや、それ以前に全くなっていない!!
四方に跳ねたもさもさの黒い髪は傷んで潤いはなく、無駄に伸びた前髪が両目を隠している。
低い団子鼻に、ポカンと大きく開いた口が馬鹿みたいだ。
顎や口の周りにはプツプツと短い髭が生えていてゾッとなる。
不潔、不細工、不美人、それは私が唾棄すべきことだ。
「天道先生、こちらは漫画家の花咲 葵先生です。ボクが担当しているんですよ」
霙が何か言っているが全く耳には入ってはこない。
私はただ目の前の男の醜悪さに戦慄していた。
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