小説家と漫画家

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先に言葉を取り戻したのは男の方で、しかしそれを"言葉"と表現するのは難しい。 「くぁwせdrftgyふじこlp!!」 意味不明な雄叫びを撒き散らしながら男は首にかけてあるショッキンググリーンのヘッドホンを装着したり外したりを忙しく繰り返す。 ……一体なんだ? 見た目だけでなく、行動までも美しくない。 「ハナちゃんのことは気にせず、天道先生どうぞ座って下さい」 「あ、ああ……」 唖然としている所に席を勧められ、つい席についてしまった上に注文していないのにコーヒーまで運ばれてきてしまう始末。 ……逃げるタイミングを完全に失った。 「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。ほ、本物の天道 日輪だ。顔ちっちゃ、肌しっろ、睫毛なっが! おれと同じ人間だとは到底思えない。……おれ、明日死ぬのか? 推しをこんな至近距離で拝めるだなんて……むしろ明日死んでも悔いはない! この幸せだけを胸に抱いて死にたいから誰かおれを殺してくれ!!」 ゾッと身体中の血がすごい勢いで引いていく。 唾を飛ばしながら早口で捲し立てる目の前のが全く理解出来ない。脳みそが理解することを拒んでいる。 「先生、驚きましたか? ハナちゃんは先生の"限界オタク"なんですよ」 「限界、オタク??」 聞き馴染みのない言葉だが、つまりは私の美貌の虜ということなのだろう。 こんな醜男まで魅了してしまうだなんて、本当にこの美しさは厄介だな。 「ハナちゃん、どうだ? 嬉しいか?」 「はい! めちゃくちゃ嬉しいです!! ミゾレさん超神ッス! 一生ついて行きます!!」 「そうかそうか。それは良かった」 いや、私は何一つとして良くないのだが? 偶然会って巻き込まれただけなのだが? とりあえず心を落ち着かせる為にコーヒーを一口すする。どうにか形勢を逆転しなければならない。 しかし、刺さるような視線が考える余裕さえも奪う。 「……なんだろうか?」 耐えかねて不細工男に訊ねると、男は口元を緩めて"フヘへ"と笑う。 本当に気持ちが悪いな。
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