小説家と漫画家

7/7
前へ
/24ページ
次へ
最後のページまで目を通して、一応霙に確認をしてみる。 「聞いてもいいかな? もしかしてコミックVirgo(ヴァルゴ)という雑誌は……」 「女性向けのBLになりますね。あ、BLって分かります? ボーイズラブの略称で──」 「知識はあるので説明は不要だ」 「流石は先生、引き出しが多いですね。それで、どうしでした?」 とりあえず、突っ込み所が満載だ。 何故、女性向けのBL漫画を男が描いているのか。……これについては予測は立っているが。 何故、こんな醜男がこんなにも美麗な絵が描けるのか。 何故、花嵐は褒めてほしそうにこちらをチラチラと見てくるのか。 まぁそんなことには突っ込めないので無難に答える。自分で自分が本当に律儀だと思う。 「……絵については専門でないから何とも言えないが、私は普通に上手いと思った。ストーリーも起承転結があり、矛盾もなくちゃんとまとまっていて面白いと思うよ。ただ──、」 言いかけて、口をつぐむ。 "何となくこの話には既視感を覚える"なんて不明瞭なことを言わない方がいいだろうかと苦慮していると、花嵐が口を開く。 「実はその話、天道さんの『不実の愛』からインスピレーションを受けたんです。……男性の同性愛がテーマの作品でしたよね。おれ、あの話が好きなんです」 驚いた。 それは昔短編集を作った時に書き下ろしたもので、話題になったこともなければ特に感想などをもらったこともない作品だ。 私にとっては"名も無き作品"という認識でいたのだが、それは見当違いだったようだ。 「それならば是非原作をやってはいただけないでしょうか? 天道先生はミステリーやサスペンスが得意ですよね? Virgo(ヴァルゴ)には今、そういう作品が必要なんですよ!」 そんな風に口説かれてもキッパリと断って早々に立ち去る。それが最適解──だったはずなのに。 「……もう少し考えさせてくれ、」 曖昧な言葉かこぼれ落ちた。 普段なら絶対にありえないことだが、私はこの花嵐という醜男に僅かな関心と強い憤りを抱く。 あの作品が好きだなんて、この男は変わっている。だって作者である私自身はな作品なのに。 あれが良く思える彼のことを知りたいと少しだけ、ほんの少しだけ思った。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加