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後始末を終えて、しばらくボーっと立ち尽くしていると背後で音がした。
この部屋には私以外ではあの男しかいないのだから、特段驚くこともなく緩慢に振り返る。
このバスルームの扉はきちんと鍵をつけるべきだと苦情をいれてやりたい。
「さ、先に起きていたんですね。そ、その……大丈夫ですか?」
ただでさえ狭い洗い場が更に狭くなる。
必然的に私と男の距離は近くなるのだが、激しい圧を感じてしまう。
私よりも10cm程も高い身長に、がっしりと鍛え上げられた逞しい体躯。こんな巨漢(しかも不細工)にパーソナルスペースを侵害されたら恐怖しかない。
ついでに股ぐらにぶら下がっている凶器をチラリと見ると、えげつない大きさで切れ痔が心配になった。
「ええと、その……カリンさん? もしかして、身体とか痛いですか?」
ファーストネームで呼ばれて我に返る。
一体この男は誰の許可を得て私のことをそう呼ぶのか甚だ疑問だ。
いい加減堪え兼ねて口を開こうとした時、男は私の腰に腕を回して抱き寄せる。
「む、無理をさせてしまいましたか? 今度はもっとちゃんと用意しますね」
"今度"?
「それと、起きたらおれに一言声をかけて下さいね。その、目が覚めたらカリンさんが隣にいないので驚きました。次は、お願いしますね、」
"次"?
さっきからこの男は一体何を言っているんだ??
「……ええと、カリンさん? どうしてずっと黙っているんですか?」
私の美しい顔を覗き込む男に、私は淡々と告げる。
「離れてくれないか? お前は一体誰だ?」
「え……、」
射竦めるように見つめると、男の腕はダランと下に落ちた。
そうだ、それでいい。
お前のような醜い男が私に触れるなどあってはならないことなのだ。
更に言葉を続ける。
「今度とか、次とか……まるでまた私とお前が肌を合わせるかのような物言いだね。そんなことあるはずがないだろう」
プルプルと小さく身体を震わせる醜男に、この世で一番美しいと言っても過言ではない私は言い放つ。
「ただ一度と寝た位で恋人面をするのはよしてくれ。……ふんっ、本当にオメデタイやつだな」
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