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小説家と漫画家
ベッドの上で両膝を抱えて座り、めそめそと泣き言をこぼす成人男性の姿はそれはそれは無様であった。
「……セ、セックスしたのにそれが恋人じゃないってどういうことなんだよ。意味が分からない。……もしかして陽キャってそうなのか?? 分からない、陰の者のおれには分からないよ母さん」
本来美しくないものなど眼中にいれたくもない私だが、昨夜のことが曖昧なので仕方なくその男を見て記憶を呼び起こすことにする。
目が覚めるような鮮やかな黄色のパーカーに、黒色のデニム。
一番目を引くのは、首にかけたショッキンググリーンのヘッドホンだろう。
……ああ、段々と思い出してきたな。
「……花嵐 蒼辰だったかな?」
か細い記憶の糸を手繰り寄せて一つの名前を口にすると、こちらに背を向けていた男は機敏に振り返る。
どうやら正解のようだな。
花嵐はベッドから飛び降りると、椅子に座る私の足元でお行儀よく正座をする。……犬かコイツは。いや、犬に失礼か。
「そ、そうです! 漫画家の花嵐です! ……はぁ、良かった。やっぱり覚えてくれてたんじゃないですか。焦りましたよ、」
漫画家。
そのフレーズを聞いてこの花嵐という男のことを完全に思い出すことが出来た。
「ド下手なBL漫画家だったね、ようやく思い出したよ」
おや? 何やら花嵐が固まっているが、私はなにかまずいことを言っただろうか? まぁ不美人のことなどどうでもいいか。
そうだ、昨日は確か午後から涼風社へと行ったんだ──。
***
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