小説家と漫画家

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「15時から舞ノ風編集部の青女(せいじょ)という男と面会の予定がある天道だ」 訪問理由を述べると、受付嬢は頬を染めて私の顔に見入ってしまう。 本当はスムーズに仕事をこなしてほしいのだが、それはもう諦めている。 私は美しいので見惚れてしまうのは仕方がない。今更こんなことで怒ってなどいられない。 「は、はい! 舞ノ風編集部の青女ですね! 今確認致しますので少々お待ち下しゃい!」 ようやく手元のパソコンを操作し始めた受付嬢は緊張のあまり言葉を噛んでいるが、これも仕方ない。 「あ、天道(てんどう) 日輪(かりん)」 不躾にフルネームを呼ばれ、少々イラッとしながら声が聞こえた方を見る。 「小説家の天道先生ですよね? ボク、漫画の(みぞれ)っていう者なんですけど……先生って漫画に興味あったりしますか?」 ベラベラと勝手に喋りながら近づいてきた恰幅の良い中年男が流れるように名刺を差し出してきたので思わず受け取ってしまう。 コミックVirgo(ヴァルゴ)編集部という肩書きが目につくが、漫画雑誌だろうか? 「漫画は全く読まないな。幼い頃から活字ばかりでね」 無礼者を軽くあしらうが、霙はしつこく食い下がる。 「それじゃあ先生、漫画原作に興味はありますか?」 「それは……漫画のストーリーを私が考えて、作画は別の者がやるということかな?」 「そうです! どうですか? やってもらえないでしょうか?」 最初からそう言えばいいものを。 ……それにしても、漫画原作か。未知なことに挑戦するのは嫌いではない。 「興味はあるかな。まだやったことがないジャンルだからね」 そう素直に答えると、霙はニンマリと笑う。 「それなら今から打ち合わせをしましょう。作画を担当する漫画家を紹介致しますよ」 「今から? 性急だな。私はこれから面会の予定があるのだが?」 すると霙は受付嬢と二言、三言言葉を交わした後に、相変わらずニコニコと私を見る。 「文芸の青女ですね。それなら大丈夫ですよ。漫画家とは外で待ち合わせをしているので一緒に行きましょう」 何が大丈夫なんだ? ……まぁ私も青女の話は最初から断るつもりだったから別にいいが。 漫画原作か、にはいいかもしれないな。
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