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両雄激突
ドラギラス王国部隊長はユグドラシルの異名で呼ばれる
そのエースはインフェルノという歴戦の勇者だが、開戦直後にカイジューダブルに瞬殺された
これでベイビルド王国が優勢になるかと言えば、彼我兵力差としてドラギラス王国部隊は、ベ国部隊の三倍の兵力を出していたので微妙な戦局ではあったが、程なくしてド国後方部隊は戦略的撤退を開始した
…と、見せかけて高見の見物をしている筈のアザトデス王国部隊を後方から挟み撃ちにする形勢をとった
「なるほど、バレてたのねぇ…うふふふ」
他人事のような素振りでヴァルハラは頷く
いつの間にか包囲されていたとは
「各部隊、戦闘開始よ」
この世界での戦闘は基本的に白兵戦である
飛び道具や爆薬は存在せず、体術と武器で戦う
「部隊長!アレを見てください!」
部下に言われて振り向き、遠方に目をやると
「あんた達はあの子を止めて!アタシはアレを確保するわ…!」
そう叫ぶとヴァルハラはサーフボードのような板に乗り、砂地を滑り、凄い速さで移動しだした
ヴァルハラは誰よりも早く"ソレ"を確保した
そして自軍に戻ろうとした瞬間…ド国の兵壁を迂回して疾走してきたカイジューダブルが双剣で激突し、"ソレ"を奪おうとした
が、激突の衝撃で両者の手から離れた"ソレ"は数メートル先の砂地に落ちた
顔を見合わせる両者
「女子?…あなた、ベイビルド王国のエースね?」
ヴァルハラはいつのも調子でそう言ってみたが、相手は答えず、鍔迫り合いの態勢のまま両者の気持ちは砂地の"ソレ"に向いていた
奪取か、眼前の敵の排除か…
一瞬静止した両者だが、戦闘態勢に入った
遠巻きに見てるのは、三国の兵士、全てだ
ア国、ベ国、ド国、その軍勢が混じり合い、休戦状態で周囲を取り囲んだ
約千五百人の兵士が固唾を飲んで見守った
戦いを、ではない、"ソレ"…を
誰一人として砂地に落ちた"ソレ"を取りに行けないのだ
誰かが走って取りに行けばいい、もしくは皆んなで特攻すればいいのに出来ない
あの二人が戦っているからだ
竜巻に飛び込むようなものだ
近付いたら死ぬだろう
それは新人兵士でもわかる事だ
互角に渡り合う両者だが、終わりは突然きた
碧い光と紅い光がぶつかったように見えた…どちらがどちらなのかは識別できなかった…そして一帯に閃光
兵士達が掌で眼を覆い、ダメージの回復を眼を凝らしながら待つと、大の字で仰向けに倒れる両雄が見えた
そして堰を切ったように全軍兵士が走り寄った
意識の中にあるのは二つ
先ずは自国のエースを引き離して保護
それとも落ちてる"ソレ"を奪取する事か?
その中で選択肢が一つのド国兵は迷わず"ソレ"に向かって走った
結末はこうだった
"ソレ"の上から突然と誰かが現れたのだ
誰も空に注目していなかったのは仕方ない
彼は明らかに"ソレ"の前に着地したのだ
そして"ソレ"を抱えるとジャンプした
ジャンプした、と言うよりも
「なんだアイツは、空を飛んでるぞ…」
「どうやらベイビルド王国方向に飛んでいるようですね」
そう判断したド国のユグドラシルが退却を宣言した
もうこの戦いに意味はない
ア国もベ国もすんなり同意し、急いでエースと負傷兵を回収して自国へ帰還して行った
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