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兵舎食堂の日常
「ナニ見てんだオラァ!」
肘鉄をくらい、転げ倒れた男を心配する者はいない
いつもの事だ…いつもの事…
怒鳴り声の主は、奥のテーブルにトレイを置き座った
倒れた男は苦笑いで起き上がりるとトレイを持って奥のテーブルに向かい、自分に肘鉄をくらわせた女の対面に座った
「おはよーう、今日も荒れてるねえ!」
「おう、おめえか」
肘鉄くらわした事なんて秒で忘れてる
それも分かってた
周囲も騒ぎ立てない
荒くれ者の集う兵舎の食堂だが、彼女とのイザコザは三年前、彼女がこの部隊に配属された時に終わった
それ以降、皆、彼女の顔色を伺いながら飯を食う
ただ一人、この男だけが例外だ
男は兵舎の管理人、所謂その他大勢である
食事は兵士と一緒にとり、世間話やクレームを聞くのだが…彼がこの部隊に着任した一年前からは肘鉄女の専属になる
だから彼が出勤の日は、皆ある程度は安心して食堂に来れるのだ
肘鉄女を見た新人兵士が隣の先輩兵士に小声で質問する
「なんですか?あれ」
「なんだ?見るのは初めてか?」
食堂は十箇所ある
各食堂でメニューが違うので兵士達は好みのメニューか空いてる食堂を選ぶ
だから彼女と鉢合わせるかは運だ
「あの子が例のカイジューダブルだ」
「…⁉︎」
その通り名に新人兵士はピンときた
「心配は要らねえよ、あの兄ちゃんがいれば」
そう、彼が大概の災いの身代わりになってくれる
新人兵士は悟られないように奥のテーブルの肘鉄女を観察した
(ぱっと見は美少女なんだよなあ…)
もぐもぐと飯を食ってるだけなら普通の女の子だ
ショートカットで兵装、スタイルは女子的な細身
肌の色は白からやや肩にかけて薄緑…
さっき管理人に肘鉄した時は場の空気が凍ったが、今は何事もなかったように笑う管理人と同席して、ポーカーフェイスで飯を食ってるのが不思議だ
この女の子がカイジューダブル?
新人兵士は冷や汗をかきながら飯をかきこんだ
「イイ奴じゃないがイヤな奴でもねえよ、多分」
実際この三年間で彼女と深く関わった者はいない
この一年、管理人が性懲りも無く絡んでいる位だ
「だがな、あの子が全部隊のエースだ」
"エース"とは一騎当千を意味する称号である
不意にサイレンが鳴り響く
【緊急召集!部隊A 部隊C-1班出撃用意!】
カイジューダブルを初め、該当兵士達が食事を中断し、ガタガタと慌ただしく食堂から出て行った
特に珍しい事ではない
彼らは"ベイビルド王国"の誇り高き兵士である
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