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――彼の夏の一日
僕は、一生に一度の恋をした
*****
「止めッ!」
終了の号令と共に、木刀を振るっていた男達はばたばたとその場に座り込んだ。
「何ですか、だらしのない」
僕は両手を腰に宛がい、態とらしく深い溜息を吐いて見せた。
木刀を振るう弱い風が止み、床板を踏み鳴らしていた音が消える。
男達の荒い息が静まるにつれ、外から聞こえて来る蝉時雨が一層喧しさを増した。
……僕は、夏が嫌いだ。
汗ばんだ稽古着は非道く着心地が悪い上に、厭な臭いを放つ。
集中力は続かないし、そうかといって素振りを続けていると次第に頭の芯がぼんやりとして来る。
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