孤高の花(はな)

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こんな日はさっさと井戸で水浴びするなり身体を拭くに限る。 僕は日陰の無い真昼の庭先へと踏み出した。 道場にいる『弟子』達には構わない事にしている。 どうせ僕が居なくなったら、皆で僕の悪口を言い合うに決まっているから。 天然理心流師範である近藤勇先生と、師範代の僕、沖田総司。 優しくて丁寧で褒め上手な先生と、荒っぽくて文句ばかり口にする、僕。 何方に剣術を習いたいかなんて、誰に聞かなくても一目瞭然だろう。 先生と比べられる事にはもう慣れっこだ。 教え下手な事は自分自身が一番知っているのだから。 それでも、やるからには徹底的に身体に叩き込むべきなのだと僕は信じていた。そうでなければ咄嗟の時に動けやしない。 尤も、野良仕事の片手間に剣術を習いに来る百姓達にそんな事を望んでいる方がどうかしているのかも知れないけれど。 何時からかは忘れてしまったけれど、僕が江戸から多摩へ出稽古に来る時には弟子の数が先生に聞いて来た数より少なくなっていた。
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