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かいだんばなし。
「えー、マジで? ちょっと怖いんですけど!」
言葉とは裏腹に後輩の高橋真由は薄ら笑いを浮かべている。
「でもそれ、由佳理先輩の母校で実際にあった事件なんすよね?」
もうひとりの後輩である加藤和義がそう言ってぶるりと身を震わせた。
今私たちはサークルの合宿でとある山間の民宿にいる。一応テニスサークルなのだがメインはテニスの練習ではなく夜の飲み会と肝試し。私たち三人は皆が寝静まった後もこそこそと怪談話で盛り上がっていた。
「由佳理先輩、それ本当なんですか? 私そういうリアルな話はヤバイんですけど」
真由が眉間に皺を寄せる。
「ねえ、この話聞いてどう思った? 嘘付いた方が悪い? それとも死んじゃえって言った方が悪い?」
二人は私の言葉を聞いて苦笑する。
「どっちが悪いってそりゃ美咲ちゃんとやらを殺した犯人でしょう」
加藤の言葉に真由も頷く。わかってないなあ、と私は静かに首を横に振った。
「あのね、この事件、犯人が侵入した形跡は全くないの。だから真っ先に疑われたのは気の毒なことに彼女の両親。でももちろん彼らが犯人なわけはない。仲のいい家族だったらしいしね」
じゃあ、いったい……と後輩二人は首を傾げた。
「あんたたち、言霊って聞いたことある?」
真由が知ってる、と小さく手を挙げる。
「ええと、言ったことが本当になっちゃう、みたいなやつ」
「そうね、言葉に不思議な力が宿りそれが実際に何かを引き起こす」
「死んじゃえって言葉が現実になったってことっすか?」
加藤は何かに聞かれるのを恐れるかのように声を潜めてそう言った。。
「それもひとつの可能性よね。でも、もうひとつ考えられないかしら。美咲はいつも嘘ばかりついていた。するといつしかその嘘の言葉が力を宿し……閻魔様を呼びよせた。なんてね」
いやあそりゃないでしょ、と真由が笑う。加藤も、閻魔様なんておとぎ話みたいなもんですよと言って肩を竦めた。
「でもさ、もしも」
私は話を続ける。
「今私の言ったどちらかが美咲の死につながったとすると……あなたたちはどう思う?」
――嘘をついた美咲が悪い?
――死ねと言ったよっちゃんが悪い?
二人は揃ってよっちゃんが悪い、と答えた。
「美咲ちゃんの死因は何だかよくわかんないけど、簡単に死ねとか言うのはまずいっしょ。ねぇ、加藤」
「うん、俺も真由ちゃんと同じ。死ねとか言うのはマズイっすよ」
私は「そう、嘘つきを許しちゃうんだ」と言い残し部屋を出た。翌朝、加藤と真由は……。
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