だから俺は嘘を吐く

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だから俺は嘘を吐く

「トウマッ!」 「ぐっ!」 高等学校の屋上。 そこで打ち明けた想いのせいで、親友のハルキに殴られてしまった。 だけどそれでいい。 「やめて、ハルキ! トウマも何言ってるの、私と別れたいなんて! 昨日まで普通だったじゃん!」 彼女が……イチカが幸せになるにはそれしか方法が無いのだから。 「そんなのお前が……ぺっ! 気付いてなかっただけだろ……俺はもう随分前からお前なんか嫌いなんだよ」 「嘘よ! この前まで好きだって……!」 「トウマ、あれは嘘だったのか。 イチカを幸せにするって話は! 君だから……君ならイチカを幸せに出来ると思ったから僕は……!」 あの時はそう思ってた。 俺が幸せにするんだと、ハルキに誓ったのをまるで昨日の事の様に思い出せる。 だけど、俺にはもう無理なんだ。 治療の出来ない病気に罹ってしまったから。 あと半年しか生きられないのに、彼女を縛り付ける訳にはいかない。 だから俺は……。 「そんな嘘に騙されてんじゃねえよ…………イチカと一回ヤってみたかった。 それだけなんだからよ」 「ひ、酷い…………トウマ、ずっと私をそんな目でしか見てなかったの?」 イチカの流す大粒の涙に胸が締め付けられる。 本当は違うと叫びたい。 だけどそれは駄目なんだ。 感情を出すわけにはいかない。 表情筋に力を入れろ。 例え血管がキレたとしても、悪役に徹するんだ。 「当たり前だろ、お前みたいな良い身体した女、手を出さない方が…………」 「トウマ! このばか野郎が!」 俺の汚い笑みに、ハルキが掴みかかってきた。 ハルキの表情は怒りで満ちている。 ーーそれで良いんだ、ハルキ。 イチカの為に怒ってくれ……彼女の為に泣いてくれ。 じゃないと安心して任せられないだろ? 「この際だ、良いこと教えてやるよ」 「良いこと?」 「イチカの性感帯…………がはっ……!」 言い終わる前にハルキが、俺を本気で蹴飛ばした。 予想より遥かに刺す痛みに俺はよろけながらフェンスに掴まり、崩れ落ちるなか。 ハルキは俺を見下ろして吐き捨てる。 「もう君とは絶好だ。 イチカにも近づかないでくれ。 ……イチカ、ほら行こう」 「ひっく…………酷いよ、トウマ…………本気で好きだったのに……」 そして泣きじゃくるイチカの肩を抱きながら、屋上から姿を消した。 扉が閉まるのを見届け、一言呟く。 「後は頼んだ、ハルキ」 それと、イチカ……ごめん。 俺は今でもイチカを愛している。 だけど愛だけじゃなんともならない事が、世の中には幾らでもある。 俺の命の灯火の様に。 だから俺は嘘を吐く。 例え嫌われても、憎まれても嘘を告げる。 「ごめん…………ごめん、イチカ……! 俺じゃ、お前を幸せに出来ない……! だから頼む……俺の分まで、お前は幸せに…………大切なお前達に幸せになって欲しいんだ!」 夕焼けの空が仰ぎ見るが、滲んで見える。 ああそうか、俺は泣いているのか。 「なにも……何も無くなっちまったな。 築いてきた絆も、恋も。 そして友情も。 だけどそれで良いんだ。 俺の存在が足枷になるのなら…………俺は……」 俺はこの空虚という罪を受け入れよう。 だけど今だけ許して欲しい。 二人のために流す涙は許してくれないだろうか。 そう願わずにはいられない。 明日からまた嘘を吐こう。 俺の死が二人の重石にならないよう……俺はこれからも嘘を吐き続ける。 この命が消えるその瞬間まで。
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