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メールには長くて、簡潔にし書けないから……
ルシェルナ、別に隠したいわけじゃないんだ。でも、これを『書く』にはあまりにも『狭い』。メールにはとても収まらない。
こういう時、あなたと電話できたらなって心から思う。何だかもどかしいよ……ルシェルナ。
だから、私は……自分への語り手となろう。でも、忘れないで。
いつだって私は……私の『言葉』は……
ルシェルナ、あなたに捧ぐもの。
『Beginning and end』
《始まりと終わり》
ねぇ、ルシェルナ。覚えてる?
『Don't live a life that ends with a flower in a vase』
《花瓶の花一輪で終わる人生を送るな》
あなたの言葉だよ。私はね、今この言葉を強く実感してるんだ。ある子がその《終わり》を選んでしまったから……
朝から騒がしい日だった。いつもだけど、その日はね…特に騒がしくて、どこかおかしかった。先生たちは、朝から緊急の職員会議を開き、生徒は『噂話』に身をとした。
黒板には、『自習』という文字がひとつ。
ねぇ、ルシェルナ。知ってる?
『噂話』ってね……ほとんど『現実』なんだよ。嘘とかじゃなくて、ほんとのことが多いの。
だから……私もすぐに知ることになった。残酷で最悪な『噂話』を。
生徒たちは『噂話』をどんどん紡いでいった。そして広げた。噂は時に、真実を語る。それは善悪、幸・不幸……関係なく。
「ねぇ……朝のニュース見た?あの子……」
「見たよ!まじでヤバいよね!」
「何で?何かあったのかな?」
「さぁ?あの子、地味だったし。話さないしー」
「そうそう、まじで陰キャ!」
「止めなよー今はヤバいって。」
「大丈夫だって。うちら関係ないし、あの子が勝手にやったことじゃん」
「まあ、そうだけどさ……告げ口されたら、どうすんの?めんどいじゃん」
陽気なあの人たちは語ったんだ。いつもよりは静かに、ひそひそと。でも、偽りの言葉に気持ちなんかなくて……軽い言葉は、教室に響いていた。私はそれを、ただ……聞いていたんだ。
ルシェルナ……あなたは私を軽蔑する?
自分を守りたいからって、黙って『侮辱』を聞き流した私を。
「あのさ、私朝のニュース見てなくて……なんかあったの?」
ある女子が聞いた。
「まじで知らないの?朝から、すごいニュースだったのに!」
「ごめん、ごめん……バタバタしててさ……で?何かあったの?」
より一層声を落として、静かに話す。
「あのね、◯◯が入院したんだよ……」
「……うん?入院……」
「その理由がさ、自分自身みたいなんだよね。」
「は?何、どういうこと?」
「もう!言わせないでよ!分かるでしょ?」
「ごめん……だって、あんまりにもびっくりしててさ……」
「だよね……分かるわー」
「……待って……うちら、結構ヤバくない?それが本当なら。」
「だよね……」
そこで、会話は途切れた。ようやく最悪な現実に目を覚ましたようだった。
ルシェルナ……彼女はね、今……意識がないの。戻っても、『記憶』は残ってるのかな。
彼女の机には、花瓶がおかれ一輪の花がおかれた。
ルシェルナ、私は思うの。偽りの気持ちしか込められない『花瓶』を置かれて、そんな惨めな思いをするくらいなら生きていた方がましだって。
彼女はまだ生きてる。でもね、例えこの世から去っても……
机には花瓶に花一輪が供えられるでしょう。
でも、時間が立てば……
水が失くなり、花びらは落ち。
やがて枯れて。
花は捨てられ、花瓶が残り。
花瓶すら、取り払われ。
やがて、机はほこりかぶり。
最後には、机が片付けられて。
『彼女』のことは忘れてしまうでしょう。
こんな惨めになるくらいなら、生きていた方がましだって……そう思うよ。
この世から去っても、『彼女』の自由は、意思は。
いったい何処にあると言うの?
ルシェルナ、彼女は《終わり》を選んだ。でも、《始まり》もまだ選べるよ。
私も、《始まり》を見つけられたら良いのにね。
あなたは、《終わり》はあった?
《始まり》はもう見つけた?
この文があなたに届くことはないでしょう。でも、メールに少しだけ書いてみようかな。
そしたら教えて……ルシェルナ。あなたの言葉。
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