2. メールアドレス

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メールには長くて、簡潔にし書けないから…… ルシェルナ、別に隠したいわけじゃないんだ。でも、これを『書く』にはあまりにも『狭い』。メールにはとても収まらない。 こういう時、あなたと電話できたらなって心から思う。何だかもどかしいよ……ルシェルナ。 だから、私は……自分への語り手となろう。でも、忘れないで。 いつだって私は……私の『言葉』は…… ルシェルナ、あなたに捧ぐもの。 『Beginning and end』 《始まりと終わり》  ねぇ、ルシェルナ。覚えてる? 『Don't live a life that ends with a flower in a vase』 《花瓶の花一輪で終わる人生を送るな》 あなたの言葉だよ。私はね、今この言葉を強く実感してるんだ。ある子がその《終わり》を選んでしまったから……  朝から騒がしい日だった。いつもだけど、その日はね…特に騒がしくて、どこかおかしかった。先生たちは、朝から緊急の職員会議を開き、生徒は『噂話』に身をとした。 黒板には、『自習』という文字がひとつ。 ねぇ、ルシェルナ。知ってる? 『噂話』ってね……ほとんど『現実』なんだよ。嘘とかじゃなくて、ほんとのことが多いの。 だから……私もすぐに知ることになった。残酷で最悪な『噂話』を。  生徒たちは『噂話』をどんどん紡いでいった。そして広げた。噂は時に、真実を語る。それは善悪、幸・不幸……関係なく。 「ねぇ……朝のニュース見た?あの子……」 「見たよ!まじでヤバいよね!」 「何で?何かあったのかな?」 「さぁ?あの子、地味だったし。話さないしー」 「そうそう、まじで陰キャ!」 「止めなよー今はヤバいって。」 「大丈夫だって。うちら関係ないし、あの子が勝手にやったことじゃん」 「まあ、そうだけどさ……告げ口されたら、どうすんの?めんどいじゃん」 陽気なあの人たちは語ったんだ。いつもよりは静かに、ひそひそと。でも、偽りの言葉に気持ちなんかなくて……軽い言葉は、教室に響いていた。私はそれを、ただ……聞いていたんだ。 ルシェルナ……あなたは私を軽蔑する? 自分を守りたいからって、黙って『侮辱』を聞き流した私を。 「あのさ、私朝のニュース見てなくて……なんかあったの?」 ある女子が聞いた。 「まじで知らないの?朝から、すごいニュースだったのに!」 「ごめん、ごめん……バタバタしててさ……で?何かあったの?」 より一層声を落として、静かに話す。 「あのね、◯◯が入院したんだよ……」 「……うん?入院……」 「その理由がさ、自分自身みたいなんだよね。」 「は?何、どういうこと?」 「もう!言わせないでよ!分かるでしょ?」 「ごめん……だって、あんまりにもびっくりしててさ……」 「だよね……分かるわー」 「……待って……うちら、結構ヤバくない?それが本当なら。」 「だよね……」 そこで、会話は途切れた。ようやく最悪な現実に目を覚ましたようだった。 ルシェルナ……彼女はね、今……意識がないの。戻っても、『記憶』は残ってるのかな。 彼女の机には、花瓶がおかれ一輪の花がおかれた。  ルシェルナ、私は思うの。偽りの気持ちしか込められない『花瓶』を置かれて、そんな惨めな思いをするくらいなら生きていた方がましだって。 彼女はまだ生きてる。でもね、例えこの世から去っても……  机には花瓶に花一輪が供えられるでしょう。  でも、時間が立てば…… 水が失くなり、花びらは落ち。 やがて枯れて。 花は捨てられ、花瓶が残り。 花瓶すら、取り払われ。 やがて、机はほこりかぶり。 最後には、机が片付けられて。 『彼女』のことは忘れてしまうでしょう。  こんな惨めになるくらいなら、生きていた方がましだって……そう思うよ。 この世から去っても、『彼女』の自由は、意思は。 いったい何処にあると言うの? ルシェルナ、彼女は《終わり》を選んだ。でも、《始まり》もまだ選べるよ。 私も、《始まり》を見つけられたら良いのにね。 あなたは、《終わり》はあった? 《始まり》はもう見つけた?  この文があなたに届くことはないでしょう。でも、メールに少しだけ書いてみようかな。 そしたら教えて……ルシェルナ。あなたの言葉。
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