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「みんな、足もとに気をつけて。ほら、石を蹴らないの。他の子に当たりますよ。前を向きなさい!」
古代人――『賢人たち』のかつての都市を、村の教師と子どもたちが歩いていた。
一行はおびただしい瓦礫を避け、隆起・陥没した道を通り抜けて進む。課外授業にはしゃぐ子どもたちから目が離せず、若い教師はすっかり気疲れしていた。
やがて到着したのは草むした広場だった。かたわらには、倒壊せずに残った遺跡がツタに覆われて建っている。教師は子どもたちを連れて遺跡に近づいた。
すると、遺跡の中から一人の老人が現れた。右手に持った杖で体を支え、左手には大きな包みを抱えている。教師は子どもたちに言った。
「この方が『賢人たち』のお話を聞かせてくれる先生ですよ。さあ、挨拶なさい」
子どもたちは身を寄せ合っていたが、老人がしわだらけの顔で笑いかけると、おずおずとその周りに集まった。
老人は優しい声で言った。
「村から来たんだね。『賢人たち』の街を見るのは始めてかな?」
子どもたちは無言で首を振る。教師が補足した。
「授業の一環で、周縁部を何度か歩いたことがあります」
老人はうなずいた。
「では、これまでにどんな遺物を見たね?」
子どもたちは恥ずかしそうに黙っていたが、一人の少年が思い切って発言した。
「細い部屋がたくさん繋がった乗り物を見ました!」
すると緊張が解けたのか、他の子も次々にしゃべり出した。
「陸の上にかけられた橋を見ました!」
「僕は、石の柱がたくさん立っているところを見ました!」
子どもたちの報告に、老人はにこにこしながらうなずいた。
「そうかそうか。では、今日は特別な遺物を見せてあげよう」
老人は、少し離れたところに立っている遺物を指さした。
「あれは何だと思う?」
その遺物は、これまでに見た遺物に比べるとだいぶこじんまりとしていた。高さは子どもの肩くらい、円筒形で、表面は滑らかだ。子どもたちは首をかしげた。
「腰かけかな? 物置き台かな? 道しるべかな?」
老人は微笑んで言った。
「君たちは、親御さんから『語りの石』の物語を聞いたことがあるかな? これは、その語りの石――ポータルなのだよ」
子どもたちは目を丸くした。
ポータルは『賢人たち』の伝説に登場する、膨大な知識を蓄えた魔法の道具だ。『語りの石』の別名どおり、『賢人たち』が道に迷えば方角を、悩みには助言を、難解な謎には解決の糸口を与えて助けてくれるとされている。
子どもたちは我先にポータルに駆け寄った。後から来る老人と教師を振り返り、期待を込めた瞳を輝かせる。
「話すところを見たい!」
子どもたちに促され、老人はポータルを目覚めさせる魔法の言葉を口にした。
「オーケ・ポータル!」
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