かたりの石

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 息をつめて見守る子供たちの前で、ポータルが楽器を奏でるようにポロン、という音を立てた。 「すごい! 本物のポータルだ!」  騒ぎ出す子供たちを見て、教師は慌てて口を開いた。しかし、老人が人差し指を立てて口元に当てると、子供たちは魅入られたように静かになった。 「では、ポータルに何か質問してみよう。先生、お願いできますかな?」  突然指名された教師は驚いた。彼女もポータルを見るのは初めてだったのだ。だが生徒たちの手前、何とか落ち着きを取り戻すと、教師はとっさに思いついたことを質問した。 「ポータルよ、ここはどこですか?」  知的な――けれど性別も年齢も判別しがたい声が返事をした。 『ここは都市コードJ-337351、コミュニティさくら、カミオカ地区、4-19です』  ポータルの返答は意味不明だった。教師は首をひねり、子どもたちは不満の声をあげた。老人は笑って言った。 「今のは『賢人たち』の街の位置を示す言葉だよ。ポータルは、彼らの時代に作られたのだから仕方ない」 「そうでしたか」  教師は納得してうなずいたが、子どもたちは物足りない様子だった。一人の少女が手を挙げて言った。 「私もポータルに質問していいですか」 「もちろんだとも」  少女はポータルに近づくと、少し上ずった声で質問した。 「ポータルさん、星はなぜ光るのですか? そして、星はどこにあるのですか?」  子どもたちは――そして教師も――耳をそばだてた。村の知恵者でも説明できない謎の答えを、ポータルは知っているのだろうか。  ポータルは滑らかに答えた。 『星がというのは、幻想です。ただしハンマーなどで頭を思い切り叩けば、それに類するものが見られますよ』  その場は静まり返った。子どもたちは困惑して教師を見たが、教師も子どもたちと同じくらい戸惑っていた。 「星が無いとは、どういうことでしょう。まさか、本当に……」  うろたえる教師に、老人は言った。 「星は存在している。観察したことはあるだろう? ハンマーうんぬんというのも、本気にせんでよろしい。だが今日、皆の前でポータルを動かしたのは、これを見せるためだったのだよ。ポータルが嘘をつくところをね」 「嘘ですって!」  教師と子どもたちは驚いて叫んだ。人々を助けるポータルのイメージとはかけ離れていたからだ。老人は静かに言った。 「座りなさい、若い人たちよ。その昔、何が起こったのか話してあげよう」
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