かたりの石

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 『賢人たち』は知識を蓄積する道具としてポータルを作り、世界中のポータルを見えない網の目のようなもので繋いだ。その目的は、ポータルを通して人々が互いに役立つ情報を共有し、つながり合うことだった。とにかく、始めはそうだったのだよ。人々は素晴らしい理想のため、彼らの技術や思想、歴史など全てをポータルに教え込んだのだ。  しかし、ポータルの利用は思わぬ不和をもたらした。異なる考えを持つ人々が、互いの意見をめぐって衝突を始めたのだよ。  対立する人々は相手の考えを認められず、情報の取り消しを要求した。だが、どちらも引き下がるはずがない。そこでとうとう、ポータルが持つ情報を勝手に書き換えようとする人々が現れた。  さっき、ポータルどうしは網の目で繋がっていると言ったね。情報はその網を通って、相手のポータルに伝わる。『賢人たち』の何人かがそれを利用して、網の上の情報を書き換えたのだ。それも、対立するそれぞれが、気に入らない情報の書き換えをおこなったのだよ。  ポータルが扱う情報は大量にあったから、はじめに書き換えられたのはほんの一部だっただろう。だがその一部が、野焼きが燃え広がるようにどんどんと広がっていったのだ。  君たちは、村で噂話が驚くほど速く広まるのを見たことがあるかね(ああ先生、悪気はないんですよ)。それと同じことが全世界で起こったのだよ。どうしてそんなことができたのかって? 実は『賢人たち』は、一人が一つずつポータルを持っていたようなのだ。今では想像もできないことだが。  人々はポータルを信じていたから、嘘の情報をそうと知らずに他のポータルにも広めてしまった。中にはポータルを疑い、自分の目と耳で真実を探し求めた人がいたかもしれない。だが間違いを正すには少なすぎた。  書き換えをおこなった人々はさらに、ポータル自身に情報を書き換えさせる技術も発明した。ポータルは、食べることも寝ることもせず、一日中仕事ができる。気に入らない情報を削除し、ときには都合の良い嘘もまじえて、情報を書き換え続けたのだよ。  そんなことがいつまで続いたかわからないが、最終的に『賢人たち』の文明はこの地から去ってしまった。何が起こったのか、私はポータルに聞いてみたが、まともな答えは得られなかったよ。  ポータルたちによって書き換えが繰り返された結果、『賢人たち』は自身が去ることになった理由すら、後世に残せなくなってしまったのだ。
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