かたりの石

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 話し終えると、老人は子供たちの顔を見て優しく言った。 「少し難しかったようだね。家に帰って、よく考えてごらん」  一人の子どもが手を挙げた。 「先生。ポータルが嘘をつくとしたら、先生は誰から今の話を聞いたんですか?」  老人は微笑むと、抱えていた包みをほどき、中身を子どもたちの目の前に差し出した。  それは、黄色に変色して今にも崩れそうな紙の束だった。積み重なった薄い紙の一枚一枚に、細かい文字が書き連ねてある。 「これは、私が発掘した古代の本だよ。私と仲間たちは『賢人たち』の遺跡から本や手記を掘り起こし、彼らの歴史を調べているのだ。本は嘘をつかないとは言わないが、いつの間にか書き換えられたりはしないからね」  老人は、先ほど自身が出てきた遺跡を振り返った。 「あの建物は、かつて図書館だった。私たちは、あそこで状態の良い本や新聞を保管し、研究しているのだよ」 「図書館って何ですか?」  子どもの質問に、老人の目がいたずらっぽくきらめいた。彼は、ポータルに向かって言った。 「オーケ・ポータル! 図書館とはなんだね?」 『かさばり、不衛生で、いずれ朽ち果てる紙束に占領された過去の遺物です』  ポータルは知的な声で答えた。老人は笑って言った。 「書き換えられたのがいつか知らないが、今となっては真実だ」 「図書館に入ってみたい! 入ってもいいですか?」  新たな興味に目を輝かせる子どもたちを、教師が慌てて制止した。 「いけません! 貴重な資料がたくさんあるのですから。それにもう、帰る時間ですよ」  子どもたちは口々に不平の声をあげたが、教師にせっつかれると老人にお礼を言って、帰路についた。 「僕、星の観察したい!」  一人が高らかに宣言すると、子どもたちは明るい笑い声をあげた。  一行の姿が見えなくなると、老人はかたわらに畳んであった厚手の布を取り上げ、ポータルにかぶせた。しばらく日光を当てないでいると、ポータルは語る力を失うのだ。次に覆いを取り外す日まで、誰かを惑わすことはないだろう。 「この(かた)り者め。『賢人たち』が去った理由がお前たちの嘘にあったとしても、私は驚かんぞ」  老人はつぶやいた。 「だが、お前は確かに大事なことを教えてくれる。お前の存在そのものから私たちは学ぶのだ」
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