6人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
話し終えると、老人は子供たちの顔を見て優しく言った。
「少し難しかったようだね。家に帰って、よく考えてごらん」
一人の子どもが手を挙げた。
「先生。ポータルが嘘をつくとしたら、先生は誰から今の話を聞いたんですか?」
老人は微笑むと、抱えていた包みをほどき、中身を子どもたちの目の前に差し出した。
それは、黄色に変色して今にも崩れそうな紙の束だった。積み重なった薄い紙の一枚一枚に、細かい文字が書き連ねてある。
「これは、私が発掘した古代の本だよ。私と仲間たちは『賢人たち』の遺跡から本や手記を掘り起こし、彼らの歴史を調べているのだ。本は嘘をつかないとは言わないが、いつの間にか書き換えられたりはしないからね」
老人は、先ほど自身が出てきた遺跡を振り返った。
「あの建物は、かつて図書館だった。私たちは、あそこで状態の良い本や新聞を保管し、研究しているのだよ」
「図書館って何ですか?」
子どもの質問に、老人の目がいたずらっぽくきらめいた。彼は、ポータルに向かって言った。
「オーケ・ポータル! 図書館とはなんだね?」
『かさばり、不衛生で、いずれ朽ち果てる紙束に占領された過去の遺物です』
ポータルは知的な声で答えた。老人は笑って言った。
「書き換えられたのがいつか知らないが、今となっては真実だ」
「図書館に入ってみたい! 入ってもいいですか?」
新たな興味に目を輝かせる子どもたちを、教師が慌てて制止した。
「いけません! 貴重な資料がたくさんあるのですから。それにもう、帰る時間ですよ」
子どもたちは口々に不平の声をあげたが、教師にせっつかれると老人にお礼を言って、帰路についた。
「僕、星の観察したい!」
一人が高らかに宣言すると、子どもたちは明るい笑い声をあげた。
一行の姿が見えなくなると、老人はかたわらに畳んであった厚手の布を取り上げ、ポータルにかぶせた。しばらく日光を当てないでいると、ポータルは語る力を失うのだ。次に覆いを取り外す日まで、誰かを惑わすことはないだろう。
「この騙り者め。『賢人たち』が去った理由がお前たちの嘘にあったとしても、私は驚かんぞ」
老人はつぶやいた。
「だが、お前は確かに大事なことを教えてくれる。お前の存在そのものから私たちは学ぶのだ」
最初のコメントを投稿しよう!