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コロナ渦中の闘病日記 -13,難病が見つかる-
「毎日検査ばかりで忙しいわねぇ」
検査疲れでぐったりして車椅子に座っている私に、看護助手が話し掛けた。
「ええ、まな板の上の鯉の気分です。もう好
きに検査してって感じです」
検査台に起きたり寝たりする度に首から肩に掛けて激痛が走った。1人で横になれず、検査技師や看護師らが2人がかりで補助してくれたが、異常な痛みに耐えての検査が続き、すっかり疲弊していた。
私に話し掛けている看護助手は苦笑いをした。
看護助手は、患者を車椅子で検査へ連れていったり、ベッドのメイキング、配膳、時には患者の話し相手等が業務内容だ。恐らく医療機関によって呼び名は異なるだろう。看護師のサポート役と認識して貰えればいい。
時には廊下で雑談に付き合ってくれた看護助手は、入院生活に慣れない私にとって心強い存在だった。
心臓の弁に張り付いている菌の塊の重みで弁がちぎれ血流に乗ってしまうと、血管が詰まり脳梗塞になる恐れがあり、安静重視で車椅子で検査に行っていたのだ。
「思ったより早く個室から出られたのね。ベ
ッドに空きが出て良かったわ」
「大部屋に入るのは初めてなので不安はあり
ますが。個室にいるとあれこれ考えてしま
うので、多少気が紛れます」
そうねぇ、確かにねぇ。
看護助手が合図ちを打つ。
カーテンで四方八歩を閉められたベッドスペースに漸く戻ってきた。
コロナの2回目の結果は陰性で、大部屋に空きが出たので入院した翌日にはベッドごと移動になった。荷物は手際よく看護師らが運んでくれた。
大部屋は最大4名の収容で、1人約4.5畳くらいの広さだ。ベッド、テレビ(テレビカードを入れると観られる)、テレビ台(収納できる引出しと冷蔵庫、簡易机を併設)、縦長のロッカー等が設置されていた。思っていたより綺麗でほっとした。
同室は比較的軽症か検査入院の方がいた。
(後日病棟の出来事を記載する)
夜は21時に消灯で、同室の方々は寝るのが早い。
早寝に慣れないことに加え、首から肩の痛み、感染性心内膜炎の症状である熱もあり睡眠不足だった。
主治医のA医師にお願いして、整形外科の医師に首と肩の検査と診察の時間を設けて貰った。
デイルームという患者の休憩スペースに隣接する個室がある。その部屋の1つに整形外科医は座っていた。オープンスペースではなく、わざわざ個室に呼ばれる辺り嫌な予感しかしない。
40代過ぎとおぼしき男性の医師は、無表情のままレントゲンとCT検査で撮った画像を見せてくれた。
「国の特定疾患、難病が見つかりました」
あぁ、嫌な予感が当たった。
只でさえ感染性心内膜炎で苦しんでいる患者に向かって、迷いも無くすぱっと難病と告げられるあたり外科医らしい。
淡々と検査で見つかった後縦靭帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう・OPLL)の説明をされても、頭が疲れていて理解が追いつかない。
心臓の病気で心身ともに疲れているのに、更に発覚した病気が難病だとは洒落だと思いたい。
「発症は女性より中年の男性に多く、どのよ
うな経路でこの病気になるのか分かってい
ません」
中年の男、に反応し私は話を聞く姿勢になった。アラフォーとはいえ、生物学上メスであり、一応女性である。中年のおっさんに多い病気になるとは、本当に冗談であって欲しかった。(男女比2:1で、発症率は男性が女性の2倍)
OPLLをかいつまんで説明すると、頸を縦に通っている後縦靭帯が骨化する(石灰化・固くなり骨と化す。詳しくはインターネットや医学書を参照)病気で、治療方法や効果のある薬はない。自覚症状として手足のしびれ、首や肩の痛み、手で物が持ちにくくなる、などあるが、私の場合たまたま検査で見つかった。
脅しではないが、慢性的な肩こりや首の痛みに悩む方は一度精密検査を受けても良いかもしれない。早急に骨は石灰化するのではなく、何年もかけてゆっくり進行するので、気になる方は是非とも。
話を戻そう。
私の場合、既に後縦靭帯が一部石灰化しており、対処療法するしかないとのこと。首に負担を掛けない、首を後ろに反らさないくらいしか出来ないのである。
「幸い菌は頸に飛んで郷(菌の塊)を作ってい
る形跡が見られませんでした。今すぐ頸の
治療をする必要はありません。いずれ手術
にはなりますが。今は心臓を最優先に治療
して下さい」
…左様ですか。
今じゃないならいいや。
黙り込む私を無視して、外科医は説明を続けた。
「今は首と肩、特に左肩が痛いと仰ってます
が、ヘルニアがありますね」
「ヘルニアですか?」
目を見開き外科医を凝視した。
5~6年ほど前に腰のヘルニアを経験しており、激痛のあまりベッドに横になったまま動けなかった時期がある。
あの激痛は2度と経験したくないが、今度は首を痛めるとは。
つまり、①感染性心内膜炎、②後縦靭帯骨化症、③首のヘルニアの3つの病気とお付き合いしていることになる。加えて脳梗塞の恐れもあり、脳のCT検査を受けたばかりで結果待ちだった。
こうして慌ただしい一週間が過ぎ、入院してから初めての週末が訪れた。
土日は検査がないため、病棟内は大変静かだ。デイルームで椅子に座りのんびり外を眺めていた。桜の蕾が綻びかけている。
春だなぁ。
花見も行けず病棟にいる自分が恨めしい。
治療はどうなるのか。
いつになったら退院できるのか。不安ばかりが募る週末であった。
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