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「お前にはちゃんとした部屋を与える。食事もきちんと食べさせる。今まで通り工作がしたければ、離れは好きに使っていい」
「ほんとうですか?うれしいです。ありがとうございます」
「約束する! お前を絶対にここから追い出したりはしないと!何があっても俺が守ってやるからな…!」
お父様はマルコーを抱きしめておいおい泣き始めた。
マルコーはキョトンとしたまま、お父様の胸に抱かれている。
これで一件落着、といきたいところだが。
(根本的な解決になってねえ気がする)
お母様も、お父様直々の命令とあっては従わざるを得ないから、マルコーへの虐待じみた待遇は改善されるかもしれない。
だがマルコーの言うとおり、お父様が死んでしまった後の方が問題だ。
まだピンピンしてるのに、こんな事を心配するのはお父様に失礼なのだが。
彼が天寿を全うできる保証はどこにもない。
医療や交通が発達していないこの時代には、死に至るきっかけはゴロゴロ転がっている。
ましてやお父様は一国一城の主。誰に命を狙われても不思議ではない。
そうなったら死人に口なし。お父様が生前に書面で約束を書き残していたとしても、秘密裏に燃やしてしまえばないも同然。
だって「姫騎士アレッサンドラ」でもラウラがそういうことやってたもん。
アレッサンドラを陥れるために代筆屋を使って嘘の公文書を偽造し、アレッサンドラが国を売り飛ばそうとしている売国奴だ!と国民にデマを流したのだ。
ほんとラウラたんは可愛い顔して鬼畜だぜ。
まあそういうわけなので、紙切れ一枚で人生が変わっちまうことはままあると俺はよーく知っているわけだ。
前世みたいに、偽造文書を見破る技術がないこの世界では特にな。
(何か、今のうちに対策を練るべきだよな)
マルコーは良くも悪くも純粋すぎる。
このまま育てば、大人になってもお母様やら周りに嘘を吹き込まれても信じそうだし、不利な条件を突きつけられても従ってしまいかねない。
そうなったら、お父様亡きあとはいいように使用人としてこき使われた挙げ句、ここを追い出されて野垂れ死にもあり得る。
(マルコーに必要なのは……もしかして教育なんじゃねえのか?)
この世界に転生してきて、気づいたことがある。
知識というのは、与えられる機会に差がある。そしてそれは環境に依存する。
俺が転生してすぐにこの世界の本を読み解き、マーリオ王国の歴史を学ぶことが出来たのは前世で得ていた知識の応用が出来たからだ。
この世界で自分がどういう地位で家はどのくらいのランクなのかを把握出来たのも、前世の知識があってこそ。まあアニメやらラノベの影響も大きいが。
異国の言葉であるファラレット語だって、
法則としては英語と同じだと気づけばなんてことなかったし。
その知識はどこで得たのか?
学校だ。
通っていた頃は面倒くさいことこの上なかったが、今は何にも勝るチートスキルだと実感している。
知識がないばかりに、自分に不利な条件の契約書にサインしてしまったり、周りの言いなりになって本来得るべき権利を放棄する羽目になったり。
もともと招かれざる子供であるマルコーは、そんな事態に陥る可能性は高い。
今からでも遅くない。マルコーにも学ぶ機会が与えられたら――
(そうだ!)
「お父様。私からもマルコーの処遇についてお願いがあるのですが、聞いていただけますか?」
「ん? 何だ?」
「マルコーを、私と同じフィオリトゥーラ学院に進学させて欲しいのです」
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