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お父様は怪訝そうな顔をした。
「マルコーを? なんでまた、そんな」
「マルコーには、この家の財産を得る権利はありませんよね?」
「……そうだな。庶子に財産の相続権はない」
お父様がぽつりとつぶやいた。
(やっぱりそうか)
『僕たちは一人の人間である前に、次期公爵家の当主なんだ。僕たちの肩には何万人もの領民の命がのしかかっていると言っても過言ではない。どうしても世継ぎが産まれなければ、君の家――ジャコモ家のように、他家から養子を迎えねばならない』
『養子……? マルコーのことですか?』
『まさか。かわいそうだけれど、彼が当主になるのは難しいだろうね』
レオナルドの皮肉めいた口ぶりから察するに、マルコーは今後、ジャコモ家の子供として認められるチャンスはほとんどないだろう。
庶民の女に手をつけて産ませた子供なんて一族の恥以外の何ものでもないだろうし。
当然、財産分与の恩恵にあずかれるはずもない。そう踏んでお父様に聞いてみたのだが――
このままでは体の良い飼い殺しだ。
運良くお父様が天寿を全うしたとしても、保障されるのは最低限の衣食住のみ。
その間マルコーはこの家で何も与えられず、ただ無為に人生を過ごす事しか出来ないだろう。
そしてマルコーの寿命はよっぽどの事がなければお父様よりもずっと長いのだ。
どちらにせよ、彼はずっとここにはいられない。いられたとしても幽閉状態だろう。
それなら下手に引き取らずに救護院にでも連れて行った方がマルコーのためだったかもしれないのだが。
我が子可愛さでそこまで頭が回らなかったのか。単に何も考えてなかったのか。
「それではマルコーはいずれ、独立しなくてはならない日が来るでしょう。一人の大人として外の世界で職を得て豊かな生活を送るためには、様々な知識が必要となります。お父様だって家督を継ぐためにお勉強をなされたのでしょう?」
「確かにそうだが…フィオリトゥーラ学院は身分の低い者には厳しいぞ? 特にマルコーはその……肌の色も違うわけだし」
お父様は言いにくそうにちらりとマルコーを見た。
「では、この家で一生マルコーを飼い殺しになさるおつもりですか? マルコーはいつまでも純粋無垢な子供ではないのです。それに――」
俺は、暗い部屋にたたずんでいる自動式機械人形を指さした。
「マルコーには工作の才能があります。学院に入って学べば、この能力をさらに飛躍させることが出来るかもしれません」
「!」
お父様が目を見はった。
「確かに、そうだな。こんな片田舎で朽ちていくには勿体ない才能だ」
お父様はマルコーに向き直り、視線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「マルコー。お前、錬金術を学んでみないか?」
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