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優しい嘘 前編
「死んだって……晶が?」
10年振りに聞いた名前。ずっと忘れる事の出来なかった人。まさかこんな形で再会するとは思ってもみなかった。
「洸平!」
その声に心臓がドクンと音を立てた。
ゆっくり振り返るとそこには晶と同じく10年振りに会うかつては親友だった男。
「柊平……」
「来てくれたんだね。」
「あぁ……何て言っていいのか……突然の事過ぎてただ驚いてる。病気だったんだって?」
「うん。進行性の癌だった。」
「そうか。」
静かに答える俺に柊平は一時の間を置いて口を開いた。
「無理を承知で頼みがある。どうしても話したい事があるんだ。晶の思いも知ってもらいたい。時間がある時でいいからここへ来てほしい。」
「え、おい!」
去り際に柊平から強引に手渡された小さな紙を手にしたまま、俺は呆然とその場に立ち尽くした。
13年前、出会いは高校の入学式。新しい教室で席が前と隣、それが柊平と晶だった。
「なぁ、名前は? 俺は 倉田洸平。」
「あ、えっと、北川柊平です。」
突然後ろから話しかけられた柊平は少し驚きながらそう答えた。けれど驚いたのは俺も同じで、何故なら振り向いた柊平があまりに美少年だったから。
「これから1年間、縁があれば3年間か。宜しくな!」
動揺していたのか思っていた以上に大きな声が出ていたようだ。吹き出すような笑い声が聞こえて、俺は隣の席へ視線を移した。
「何で笑ったの?」
彼女はくしゃっとした笑顔を向けた後で、大きな瞳を輝かせた。
「ごめん。凄く声が大きかったから。それに洸平、柊平なんてお笑いのコンビみたいだなって。私は香坂晶。縁があれば3年間よろしく!」
そう言ってもう一度笑った彼女の顔があまりに可愛くて、俺はその瞬間に恋に落ちてしまった。
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