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「おかえり。」
「ただいま。お店に柊ちゃん居ないからびっくりしたよ! とりあえずcloseの札掛けといたからね! あれお客さん? ごめんなさい! 私全然気付かなくて。初めまして、北川朱莉です!」
「あ、倉田洸平です。」
礼儀正しい挨拶と勢いにびっくりして少し声が裏返ってしまった。俺の名前を聞くなり驚いた顔で柊平を見る彼女はひどく興奮しているように見えた。
「え! 洸平ってあの? いつも晶と柊ちゃんが話してたあの洸ちゃん?!」
「朱莉落ち着いて。」
「あ、うん! えっともしかして何か話してる途中だった? ごめんなさい! 私部屋に居るからゆっくり話してね! じゃぁ失礼します!」
彼女は何かを察したようにもう一度俺の顔をじっと見た後でその場を去った。嵐のような彼女が去った後、俺は困惑しつつも口を開いた。
「娘居たんだな。びっくりした。しっかりした子だな。いくつ?」
「10歳だよ。」
「10歳……?」
ちょっと待て。10歳だと計算合わなくないか? その年齢だと高校を卒業してすぐに産まれた事になる。
首を傾げる俺を見て柊平はすぐに言葉を続けた。
「朱莉は養子なんだ。晶の遠い親戚の子で3歳の時に朱莉の親が亡くなって、身寄りがない所を引き取ったんだ。」
「そうか……凄いな。おまえも晶も。普通は中々そんな事出来ないよ。」
「晶はずっと子供を欲しがっていたから。俺も最初は戸惑ったけど、今は朱莉が居てくれて本当に良かったと思ってる。」
柊平はさっきまで俺に向けていた真剣な顔とは違う柔らかな笑顔でそう言った。俺は少し迷いつつも気になっていた事を聞く事にした。
「こんな事聞いていいのかわからないけど、自分達の子供を作ろうとは思わなかったのか? 7年前ならまだ結婚してすぐだろ?」
「俺と晶の間には子供は出来ないんだ。」
「出来ない? 晶の病気が関係あったとか?」
「違うよ。そもそも俺たちの間に男女の関係はないんだ。だから子供が出来る事はありえない。」
「え、ごめん。全然わかんねーわ。一体何がどーなってんだ?」
プライベートな事だとわかっていながらも深まる謎に益々理由を聞いてみたくなった。混乱する頭で色々考えてみても何にもわからない。男女の関係がない、ありえない、一体どういう事だ?
晶は俺とも一線を越える事はなかった。柊平ともなんて晶には何かそう出来ないトラウマでもあるのだろうか。
俺の考え込む様子を暫く見ていた柊平がゆっくりと口を開いた。その顔はとても深刻でどこか悲しげな表情だった。
「洸平にはいつか本当の事を話さないといけないと思ってた。今まで言えなくてごめん。傷付けて裏切って本当に悪かった。」
俺は何を言われるのかと怖くなったけれど、
「どういう事だよ?」
と少し不安を混じらせた声で言葉を返した。
柊平はそんな俺を一瞥した後、小さく息を吐き真っ直ぐに俺を見つめながら力強く言った。
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