優しい嘘 後編

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「驚かせてごめん。ずっと言えなくてごめん。」 「驚いたとかそんなレベルじゃない。2人して俺の事をずっと騙してたのか? どうして晶から話を聞いた時、すぐに話してくれなかったんだよ。何で結婚なんかすんだよ……」 悔しくて苦しくて怒りが込み上げてきた。そんな真実ありかよって。俺はずっと2人に裏切られたと思って生きてきたのに。 「……言えなかった。結婚したのは晶と家族になりたかったから。洸平の事を話せる人とずっと一緒に居たかったんだ。」 「意味わかんねぇよ。だったら何で今更……」 胸の奥底から溢れ出る行き場のない感情をどうすればいいのかわからない。俺は思わず両手で顔を覆った。柊平の真っ直ぐな視線を遮るように。 「晶が伝えたいって言ったから。洸平はきっと忘れていないから、ずっと傷付いたままでいるだろうからって。」 「もういいよ。そんなのおまえと晶のエゴだろ。全部吐き出して楽になりたかったのはおまえらだろ? 俺を理由に嘘を正当化すんなよ。帰る。もう2度と来ない。」 湧き上がる怒りと哀しみの感情が抑えられなかった。乱暴に扉を開け店を出ると苛立ちながら歩く。来た時には晴れていた空が今は鈍いグレーで覆い尽くされていた。 「待って! お願い!」 後ろから叫び声が聞こえたと思ったら振り向き様に腕を掴まれた。そこには必死な顔をした朱莉がいた。 「朱莉ちゃん。帰るから離して。」 彼女は首をぶんぶん振って腕を掴んだまま離さない。それどころかさっきよりも強い力で俺を逃すまいとしているようにも思えた。 「言ってない。柊ちゃん大事な事言ってない。晶が伝えたかった事をちゃんと言ってない! 手紙を預かってたの。朱莉が持っててって言われて。あなたに、洸ちゃんに会えたら渡して欲しいって。お願いします! 読んでください! お願いします!」 「わかったから。ちゃんと読むから。」 泣きながら何度も俺に向かって頭を下げる朱莉に胸が痛んだ。 手渡された手紙をゆっくりと開く。開いた瞬間、目に飛び込んで来た懐かしい文字に一瞬で心があの頃へと引き戻された。 付き合っていた頃、晶はよく手紙を書いてくれていた。そこには俺への愛情や晶の優しさが詰まっていた。何度も何度も晶の思いのこもった手紙を受け取っていた。それなのに俺は一度も返事を書いた事はなかった。 裏切られたと知った後も手紙だけはどうしても捨てる事が出来なかった。 ゆっくりと息を吐き、目で文字をなぞるように晶の思いを読み進めた。
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