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野良は天敵
カラン・・・。――――――開店直後の『シルク』のドアベルが鳴る。美律は、”こんな早い時間に珍しいな”と思いつつ、いつものように穏やかに声を発し・・・それを途中で詰まらせた。
「――――いらっしゃいま・・・、せ?」
美律の困惑気味な声に、ドアに背を向け新しいグラスを出していた丈治が訝しげに振り向く。
そしてドア前に立った客を見て、微かに顔を顰めてわざとらしい溜め息を吐いた。
「―――――どこの野良かと思えば・・・。ボサっと突っ立ってねぇで座れ」
「ご無沙汰してます・・・。オヤジさん」
どうやら客は祖父の知り合いらしい。美律は不覚にも浮かべてしまった驚きの表情をスッと引き締め、いつも通りの手順でドリンクメニューを静かにその男の前に滑らせた。
美律が声を詰まらせたのはその男を知っていたからでもないし、その男が特別おかしな動きを見せたからでもない。――――祖父の第一声がそうだったように、ありえないくらい酷い恰好だったからだ。
少しウェーブがかっているだろう長めの髪があっちこっちに寝癖みたいに跳ねていて、2日は剃っていないだろう髭が中途半端に伸びている。そして着ている物がまた・・・最悪だった。
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